3月は引っ越し業者にとって「猫の手も借りたい」ほど大忙しとなる書き入れ時。とくに下旬にかけては件数が多く、人員の確保が難しくなることもあるようです。
業者の仕事は、家具や電化製品など荷物の運搬で、作業員にとっては体力勝負。中には、「ウッカリ」や「疲れ」から落としてしまうなどして、家や家具などを傷つけてしまう可能性があります。
サービスを受ける側としては、そのような場合は賠償金を支払ってもらいたいものですが、「忙しいから仕方ない……」と請求せずに終わってしまう人も多いと聞きます。
やはり傷をつけられてしまったものについては、正当な賠償を受けるべきもの。いったいどのように請求すればいいのでしょうか?
星野・長塚・木川法律事務所の星野宏明弁護士にお話を伺いました。
■どのように請求すればいい?
「少額の場合、弁護士をつけても費用倒れとなるので、自分で直接引っ越し会社と交渉するしかありません。
引っ越し代金が現金払いの場合、一応の作業完了後に代金を支払ってしまうと、あとで賠償額との相殺や代金の減額も困難となり、納得できずに泣き寝入りとなる可能性が高いです。
責任の有無の判断はともかく、客観的に引っ越し会社の責に帰すべき事由があることが明らかな場合は、作業完了後の現金支払を留保し、賠償額との相殺を検討するのが一番実効性はあります。
引っ越し完了後、代金を現金で支払った後は、後日交渉しても、返金は難しいと思います。
したがって、本当に引っ越し会社の責任がある場合は、後で交渉は得策ではなく、作業完了の現金支払い時に交渉する必要があります。
高価な家具や貴重品は引っ越しの保険に加入することも検討しましょう」(星野弁護士)
■やむを得ず生じた場合は請求できない
「なお、引っ越し作業で他の家具を損傷させないことは、引っ越しサービス契約における引っ越し会社の債務そのものではなく、引っ越しサービス契約の付随的な義務として導き出せるものです。
したがって、作業の難易度も勘案し、合理的な注意義務を尽くさずに損傷した場合には賠償責任がありますが、ある程度の注意を尽くしても作業の難易度が高く引っ越し会社の責に帰すべき事由とはいえないようなケースでは、そもそも責任は問えません。
例えば、2階のベランダから大きなピアノを搬入するような場合、通常は特別料金を払いますし、毛布等で傷がつかないよう細心の注意は払うでしょうが、それでもベランダの欄干に多少傷がつくことや、落下のリスクはゼロではなく、作業の難易度からして、相当の注意を尽くしてもやむを得ず生じた損傷は、引っ越し会社の責任とならないこともありえます」(星野弁護士)
引っ越し業者は慎重を期して作業に臨むと思われるため、傷をつけられてしまうことはレアケースだと思いますが、やむを得ない理由で傷が発生した場合は、支払い時に確認・請求するのが、ベストのようです。
ただし、難易度の高い運搬の場合は、業者の責任とならないこともあるとのこと。そのあたりをしっかり見極めたうえで、請求するようにしましょう。
*取材協力弁護士:星野宏明(星野・長塚・木川法律事務所(旧星野法律事務所)。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)
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