私は弁護士ですので、税金の専門家ではありませんが、事件解決の際には、税金が問題となることがしばしばあります。
その場合には、協力関係にある税理士や、税務署に対する確認を行うようにしています。今回は、実際に税理士や税務署への確認を徹底したことで紛争がスムーズに解決した例をご紹介します。
■紛争の概要
私は、同族会社での紛争において、一方当事者の代理人として活動をしていました。当初、私の依頼者は、1回の株式譲渡で保有する株式全部の譲渡を行い、その代金も一括で払ってほしいという希望を有していました。
それに対し、会社は資金繰りの関係で、私の依頼者が保有する株式を全て買い取るにしても、複数年にわたって複数回の株式譲渡を実施して買い取りたい(つまりは、実質的な分割払い)との希望を有していました。話は平行線となっていましたが、念のため税金がどの程度かかるのかということを確認することになりました。
■税金が依頼者の判断や解決方法に影響を与えることがある
株式譲渡に係る税金の税率は20%程度(上場会社の株式譲渡の場合、平成29年10月時点の税率は20.315%)でしたので、本件においても同じくらいの税率の税金が課されると思っていましたが、上記事件の実際の税額等を調べてみて驚きました。
非上場株式会社が発行する株式を当該会社が買い取る場合、資本金等に相当する額を除いては「みなし配当」とされます。
当該みなし配当は、“他の所得と合算されて”総合課税の対象となっているとのことでした。
つまり、上記事件では一部の控除される金額はあるものの、株式譲渡代金の大半がみなし配当とされるとのことでした。そして、本件では、株式譲渡代金が多額であったため、当該みなし配当の所得税率は最高の45%となるとのことでした。
また、45%の所得税に加えて、さらに10%の住民税がかかるということでした。つまり、株式譲渡代金を取得したとしても、約半分は税金になってしまいかねない状況でした。
税金を検討した結果、依頼者からは、一括の株式譲渡では、税金の金額が大きくなりすぎるので、他の方法で調整をはかってほしいという要望が出ました。
そのため、株式の譲渡を数年に渡って行い、複数回の株式譲渡で全ての株式を譲渡するといった会社の案を骨子として、相手方と調整することとなりました。
ちなみに、数年に渡って複数回の株式譲渡することによって、依頼者にとっては、1年間の所得を下げて税金の負担を軽くするとともに、会社にとっても、株式譲渡代金の資金繰りがしやすくなるといったメリットがありました。
最終的には、数年に渡って複数回の株式譲渡をすることによって、双方が税務上のメリットを得る形での解決をすることができました。
このように、税金の額によって依頼者のメリット・デメリットが異なったり、当初想定していた計画の変更を迫られることもあり得ます。こうした解決へと導けたのも、税金の専門家である税理士の先生方との提携があったからこそです。
当事務所では、事件の解決に当たって、適切な税理士と協力して、様々なトラブルに関する相談・解決を行っております。もちろん、必要に応じて税理士を紹介することもできますので、お気軽にご相談にいらっしゃって下さい。
*著者:阿部栄一郎(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。交通事故から、不動産、離婚まで幅広い分野に精通。「不安定になることや感情的になることもあると思います。そんなときは、まず当事務所にご連絡下さい」)
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