読者の皆さんは、人から名字と下の名前どちらで呼ばれますか? おそらく、名字で呼ばれる機会が多いのではないでしょうか。
この名字と名前は法律的にはそれぞれ「氏」「名」と呼ばれています。基本的に名は変わることがありませんが、氏は婚姻・結婚で変わることがあります。
今回は氏について婚姻時や離婚後、再婚時にどうなるのかといった点について解説してみたいと思います。
■民法に「夫婦は氏を合わせる」という規定がある
民法には、婚姻する際、夫婦どちらかの氏に合わせるとの規定があります(750条)。
ほとんどが夫側の氏に合わせるようです。氏を変えると、様々な不都合(免許の書き換え、契約関係の名前の訂正等)が考えられます。
そのため、職場では通称として旧姓を使用する人も増え、職場での通称使用をめぐって裁判になる事件も出てきています。
■離婚後に氏はどうなる?
さて、氏を変えた人は離婚時どうなるのでしょう。
民法は、氏を変えたものは離婚により、「婚姻前の氏に復する」と規定しています(767条1項)。
例えば、私は林という氏ですが、私が佐藤さんと「佐藤」という氏を選択して婚姻し、そして離婚した場合、私は「佐藤」から「林」に戻ることになります。
■離婚後の子どもの氏はどうなる?
もし、離婚時に子どもがいた場合、子どもの氏はどうなるのでしょうか?
離婚した本人は「佐藤」から「林」に氏が変わりますが、子どもの氏は「佐藤」のままとなります。そのため、私と子どもの氏が異なることになり、社会生活上支障をきたすかもしれません。
また、私にとっても、長年「佐藤」で過ごしていれば「林」に戻ることが社会生活に支障をきたすかもしれません。
民法には、離婚時に婚姻生活で使っていた氏を引き続き使える手続きがあり(民法767条2項等)、この手続を利用すれば、私は離婚後も「佐藤」と名乗れることになります。
■再婚後に再度離婚をしたら氏はどうなる?
では、私が「佐藤」を名乗ることに決めた後、鈴木さんと出会い再婚し、新たに「鈴木」と名乗ることにしました。
そして、再度離婚した場合、私の氏はどうなるのでしょうか。
私が「鈴木」から戻る氏とは、元々の氏である「林」でしょうか。それとも鈴木さんと出会う前に名乗っていた「佐藤」でしょうか。
民法767条2項には、「婚姻前の氏に復する」と規定されています。
結論をいえば、婚姻前の氏は「佐藤」でしたので、私の氏は「佐藤」になります。離婚後に「林」には戻れないのです。
■もし元々の氏を名乗りたければ?
もっとも、私が「佐藤」から「林」を名乗る方法が全くないわけではありません。例えば、林さんと婚姻すれば、新たに「林」と名乗れます。また、林さんの養子になれば「林」の氏になります。
しかしながら、婚姻するには別の林さんを見つけて良い仲にならねばなりませんし、年上の別の林さんを見つけて養子に入れてもらうのも一苦労です。
他には、氏の変更を家庭裁判所に許可を求めるという方法も用意されています。
家庭裁判所に許可してもらうには「やむを得ない事情」が必要です(戸籍法107条1項)。いずれにせよ、簡単には「林」に戻れません。
離婚の際、どちらの氏を使うのか、慎重に判断しないと後悔することになるかもしれませんね。
*著者 弁護士:林 正和(丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士。全ての案件に対し、最善を尽くすため、広い視野を持ち、幅広い知見を得られるよう精進して参る所存です。)
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*Satoshi KOHNO / PIXTA(ピクスタ)
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