医療従事者はそのほとんどが患者の症状を治癒するため、奮闘しているものと思われます。しかしごく一部に、自分の儲けを考え、あくどい診療をする医師もいるようです。
例えば、本当は歯を抜く必要がないにもかかわらず、「虫歯」だと言って抜いた挙句、高額な義歯を埋め込んだり、さほど重大でもないのに「深刻である」と告げ、入院を促したりすることがあると聞きます。
このような「嘘の診療」を行った場合、どのような罪に問われるのでしょうか? あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお聞きしました。
■どのような罪に問われる?
「医師については、詐欺罪が成立します。傷害罪が成立する可能性も考えられます。まず、詐欺罪ですが、2つの詐欺罪が成立する可能性があります。
第1に、患者に対する詐欺罪です。実際には行っていない診療について診療費が発生したかのように装い、支払を請求して受領することは、詐欺罪となります。
第2に、社会保険診療報酬支払基金に対する詐欺罪です。医師は、診療報酬請求明細書を社会保険診療報酬支払基金に提出して、診療報酬を請求します。
実際に行っていない診療内容を明細書に記載し、診療費が発生したかのように装い、請求して受領することは、詐欺罪になります。
次に、患者に対する傷害罪です。医療行為は、患者の同意があって初めて正当化されます。
例えば、手術は、形式的には傷害罪に該当します。ですが、患者の同意があるので、犯罪にはなりません。
同意したとは異なる内容の治療が行われていた場合、同意がないまま治療行為が行われたときと同じように、傷害罪が成立する余地があります。
なお、文書偽造罪は成立しません。文書偽造罪は、作成名義を偽ることで成立します。
嘘の内容の文書を作成しても、刑法上の文書偽造ではないからです。診断書を発行した場合には、嘘の内容の診断書ということになります。
診療報酬請求明細書も、嘘の内容です。ですが、どちらも作成した医師が、自分の名義で作成した文書なので、偽造ではありません」(高野倉弁護士)
■患者はどのような対応を取ればいい?
悪徳医師がいるといわれても、患者はまったくわからないもの。仮に被害にあってしまった場合、どのような対応を取ればいいのでしょうか?
同じく高野倉勇樹弁護士にお聞きすると…
「被害に遭った患者としては、損害賠償請求を行うことが考えられます。騙し取られた治療の額を損害額として、損害賠償を請求できます。
また、実際よりも悪い状態であるという嘘の診断をされたり、望まない治療を受けさせられていたのであれば、慰謝料を請求する余地があります。
このほか、詐欺罪で刑事告訴することも可能です」(高野倉弁護士)
実際に被害にあった場合、損害賠償請求などを行うことができるようです。ただし、闇雲に「慰謝料」「損害賠償請求」と言っても、その主張が正当であるか疑問視されてしまうでしょう。
「納得のいかない診療を受けた」という場合は、弁護士に相談し、医師が下した診断の正当性などを慎重に議論することをおすすめします。
*取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中
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*studiolaut / PIXTA(ピクスタ)
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