3月5日、香川県のJR予讃線の特急列車の線路上にガスボンベが置かれるという悪質な出来事がありました。
ガスボンベの存在に気が付いた運転士がブレーキをかけるも間に合わず、衝突し、車両の一部が損傷しました。幸いなことに、乗客には怪我はなかったようです。
3月13日には、同月2日に、上記ガスボンベが置かれた場所に脚立を置いた容疑で20歳の男が逮捕されたようです。ガスボンベが置かれていた件との関連も捜査が進められるそうです。
この男性の逮捕罪名は、「列車往来危険罪」という聞きなれないものです。これはどんな犯罪か、解説します。
■列車往来危険罪とは
刑法第125条は、「鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、二年以上の有期懲役に処する。」と規定されています。“往来の危険を生じさせる”とは、「列車が脱線したり、横転したり、衝突してしまう危険を発生させる状態」という意味です。
例えば、線路に置き石をした場合でも、これに該当する可能性はあります。
■実はかなり重い罪
「なんだ、ちょっとしたイタズラを罰する罪か」と思ったあなた。ちょっと待ってください。この、列車往来危険罪、法定刑は、「2年以上の有期懲役」です。かなり重い罪なのです。
これと同じ法定刑を定めた罪を探してみると、非現住建造物等放火(刑法第109条1項)がありました。
これは人が住んでいない家を放火した場合を罰する罪です。人が住んでいないとはいえ、延焼等により人の命や周囲の建物など貴重な財産が失われるおそれのある重い罪です。列車往来危険罪は、これと同等に重い罪なのです。
■死者が出たら法定刑は死刑か無期懲役のみ
しかも、例えば冒頭の事件のようにガスボンベを置いてこれが爆発し、実際に列車が転覆してしまったという場合、さらに重い刑が科されるのです。死者が出なかったとしても、「無期又は三年以上の懲役」、万一、死者が出てしまった場合、「死刑又は無期懲役」という非常に重い刑に処せられるのです。
■殺人罪・殺人未遂罪との違いは?
「そんな危ないことして、殺人未遂罪じゃないのか?」と思われたあなた。なかなか鋭い指摘です。殺人罪は、「故意」に(わざと)人を殺した場合に適用される罪です。
殺人未遂罪は、故意に人を殺そうとしたけど死に至らなかった場合です。列車往来危険罪は、この「人の死に向けられた故意(意欲)」が無くても重く罰せられるところに特徴があるわけです。
このように、イタズラのつもりが思わぬ大罪になってしまう危険があります。線路や列車に悪さをしてはいけません。
*著者:弁護士 河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活7年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)
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