政府は不当な長残業を削減すべく、残業時間の上限を定める方向で検討しています。詳細はこれから決まるようですが、既報の通り年間720時間、月平均60時間程度で調整するとみられています。
この政策が長時間残業の抑制につながるのかについては意見がわかれるところ。会社によってはタイムカードを用意せず、あとから勤務表のようなものを手書きさせているケースもあるため、残業時間の過少申告や正確な勤務時間把握ができないなどの事案が発生する可能性が否定できません。
タイムカード未設置企業については正確な勤務時間を把握する意思がないようにも思えます。そのよう企業は違法ではないのでしょうか?
ピープルズ法律事務所の森川文人弁護士に見解をお伺いしました。
Q.タイムカードを用意しない企業は違法ではないのですか?
A.直ちに違法ではありませんが、労働時間について争いが起きた場合不利になると思われます。
「厚生労働省の通達により、使用者が労働時間を確認・記録することが義務とされています。その確認記録方法は自らの現認又はタイムカード等の客観的な記録の利用を原則とすること、とされています。この通達に違反することにはなる可能性は極めて高いです。
自己申告制により行わざるを得ない場合には、実態把握をするなど措置が必要とされています(平成13年4月6日基発339号 労働時間把握基準)。したがって客観的な方法で把握していなかった場合には、労働時間について争いが起きた場合、使用者側が不利に扱われることになるでしょうし、そうすべきでしょう」(森川弁護士)
タイムカードのないことがただちに違法というわけありませんが、厚生労働省の通達に違反する可能性が高く、好ましい状態とはいえないようです。正確な勤務時間把握と記録は使用者の義務だけに、タイムカードなどで労働時間をしっかりと管理してほしいものです。
*取材協力弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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