日本の国民病というべき病気、癌。以前は不治の病とされていましたが、現在は早期発見早期治療を行えば治すことも可能になりました。
それだけに、変調を感じたらすぐに病院にいくことが重要。また、複数の医師から意見を聞くセカンド・オピニオンも早期発見にとっては大事な要素といえます。
しかし、わかっていてはいても1回目の病院で「異常なし」といわれれば安心してしまい、別の病院にいくことをやめてしまうもの。安心しきってしばらく過ごしたものの、違和感や痛みがひどくなり2回目の病院検査を受けてみたら、医師から「かなり重篤な癌です。もう少し発見が早ければ」と告げられた。
この場合初回の検査を担当し、「異常なし」の結論をだした医師を提訴したくなります。はたしてそのようなことは可能なのでしょうか? 医療問題に詳しい三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士に意見を伺いました。
Q.2回目の検査で重篤な癌が判明した場合、1回目で「異常なし」の判断をした医師を訴えることができる?
A.提訴に踏み切るには十分な事前調査が必要です。
「単純な見落としなのか、結果論からすれば初回検査時から癌があったと言わざるを得ないが、初回検査時の発見は難しい状況だったのか、などが問題となります。
実務上は、いきなり提訴の前に、まずカルテを取り寄せるとともに、患者側で医療事件を扱っている弁護士に相談し、病院側の考えを聞くところから始めるのが通例です。
提訴となると、『初診時に既に癌を発症していたので**の検査をやればわかったはず』『**の検査結果は“癌”と評価すべき』等、医学的知見を立証する必要があるので、医学文献や第三者医師に意見をもらうなど、その点の準備も必要になってきます。
医療訴訟は専門的な知見の立証などが必要になり、単純なミスに見えても『医療機関側が専門的な見解では**』と反論するかもしれず、その場合の再反論の手立てなども考えておく必要があり、事前の調査が大事と思います。
また、仮に裁判で“ミス”を立証することはなかなか難しいかもしれないという場合でも医療ADRなどで話合いの場を持つことはあり得るところです。医療訴訟での原告(患者)側勝訴率は高いとは言えず、提訴に踏み切るには慎重な検討を要するところです」(伊東弁護士)
簡単に「納得がいかないから提訴」という訳にはいかず、弁護士や第三者医師などの意見を十分に聞いたうえで慎重に検討する必要があるようです。
できれば検査段階で複数の病院に通い、多くの医師に意見を聞いておきたいところですね。
*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
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