「グレーだと意識することが著作権トラブルの対策に」…ITスキルに長けた弁護士が警鐘

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大学在学中の2002年に、友人と共にIT系のベンチャー企業を設立した経験を生かして、現在でもIT企業のサポートを多くこなしている中野弁護士。近年IT関連で増えているトラブルや、その対処法として工夫していることを伺いました。

中野秀俊(なかの ひでとし)
弁護士グローウィル国際法律事務所は、元IT企業経営者であり現在も会社の経営者である中野秀俊弁護士が、クライアントにとって理想の法律事務所を実現したいという思いから設立。

*中野弁護士のインタビュー記事

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■IT企業の法トラブルにはエンジニアの知識が重宝する

___弁護士になってから印象深いエピソードについて教えてください。

メインの顧客がIT企業なので、システム開発などで発生する、著作権・特許などの知的財産権といった目に見えないものを相手にすることが非常に多いです。こういう問題は、クライアントから聞き取りをした状況だけで判断をしなければならず、証拠がない場合も多いので、そういう状況でも立論して、解決できたときは嬉しいですね。

また、IT企業の支援では、プログラムコードなどの技術者の知識がある程度あれば、法律的な知的財産権に関しても有利に進められると思います。例えば著作権侵害に関するトラブルでは、似ているとされるコンテンツと、著作権を侵害されていると主張する側のコンテンツが、本当に似ているかどうかが問題の争点となります。こういったケースでは、その仕組み、例えば、プログラムのコードが似ているのかどうかが分かっていないと判断できないからです。

学生時代に起業したITベンチャー企業での経験から、エンジニアの知識も多少持っているので、そういう紛争では、他の弁護士よりも分かっていることは多いと思います。クライアントからも「話が簡単に通じるので、良いですね」といった感想をいただくことも多いですね。

 

■増えている「著作権トラブル」はグレーゾーンだと意識することが重要

___最近、相談が増えている事案はありますか?

著作権や特許などの知財周りのトラブル相談は、最近特に増えていますね。コピーアンドペーストがしやすくなっていますので、コードやサービスのシステムだけでなく文章、画像、動画なども含めて、どこまで真似していいのか、どこまで参考にしていいのか、どこまで引用していいのか、といった相談は日常的茶飯事です。

著作権は親告罪なので、法律上は違反であっても、著作権者が何も言わなければ紛争や訴訟にはなりません。例えば、同人誌のコミックマーケットなどは、法律上アウトになる可能性が高い事例です。しかし、日本独特のマーケットで、ネタ元になっている漫画やアニメの宣伝になるし、著作権者側にもメリットがあるので、現状何も言わないで見過ごしているという状態が続いています。だから、何をしても良いということではなくて、それはグレーゾーンであり、法律違反になる可能性があるという意識を持つことが非常に重要です。

これは、企業間の著作権トラブルでも同様です。著作権に違反した場合は、こういう損害賠償や差し止めが来て、損害賠償額はだいたいこれくらいの額という、想定されるリスクを伝えた上で、仮に損害賠償を上回る売上、利益が予想できるのであれば、経営判断として、そのまま運用することもありじゃないですかということは伝えることもあります。もちろん、モラルの問題もありますが、法律論だけを伝えるのではなく、やるかやらないかは経営判断に任せるように対応しています。

 

■日々知識をアップデートさせて最新技術やサービスのトラブルにも対応

___IT系の法律問題に対応する上で工夫されていることはありますか?

コードのプログラミングや、ITの法律はどんどん変わっていきますので、そこも知識に関するアップデートできるように常に意識しています。実際に自分で高度なプログラミングを行うといったことは現在はやっていませんが、弊所のウェブサイトでWordpressというソフトウェアを運用しているので、簡単なコードを書くことはよくあります。

また、新サービスなどに関しては、雑誌や専門のウェブメディアなどをチェックして知識をアップデートするように心がけています。また、法律ではないのですが、行政で出しているガイドラインや規則についても細かくチェックしています。さらに、クライアントさんとスムーズにコミュニケーションを取りたいので、SNSツールやチャットワークを使ってリアルタイムで相談にのるといったことも柔軟に対応できるようにしていますね。

それと日々、IT企業の相談に乗っているので、常に新しいサービスに触れていること自体が、弁護士としてのスキルアップに役立っていると感じます。新サービスの問い合わせかひっきりなしに来るので、必然的に「それは、どういうシステムで運用されているのですか?」という質問をクライアントに投げかけます。最近は、AIやAR/VRなどについての相談もありますね。こうした最新の技術は、真似されやすく、まだ法律が整備されてない分野なので、将来的に起こりうるリスクや、こういう法律が起案される可能性があるといったことも含めてアドバイスできるようにしています。

また、私はクライアントには、そもそも訴訟や紛争にならないようにしましょうと、よく伝えます。訴訟や紛争になること自体が、費用的・時間的なコストがかかります。そうなる前に、しっかり対応できることが一番良いわけです。ですので、ウェブサービスなどでも、利用規約や契約書をきちんと整備して、クレームがあったときにも対応できるようなものにしておきましょうということは、かなり強調して伝えていますね。

 

*取材協力弁護士:中野秀俊(なかの ひでとし)弁護士
1984年生まれ。埼玉県出身。城北埼玉高校卒業。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。学習院大学法科大学院修了。大学在学中の2002年に、友人と共にベンチャー企業を設立。その事業の失敗を契機に、弁護士を目指す。グローウィル国際法律事務所 代表弁護士。みらいチャレンジ株式会社 代表取締。SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO。東京弁護士会インターネット法部会会員。著書に「ここをチェック!ここをチェック! ネットビジネスで必ずモメる法律問題」「有利な契約・利用規約を結ぶためのビジネス契約書 つくり方とチェックポイント」(いずれも、日本実業出版社)などがある。

*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)

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