「残業代ゼロ法案」は実務への影響は少ない!? 「労基法」改正の焦点を弁護士が解説

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安倍内閣の「働き方改革」の一環として、長時間労働の是正を目的とした、いわゆる「残業代ゼロ」法案を含めた「労働基準法」の改正が、先の臨時国会での成立が見送られたというニュースは記憶にも新しいかと思います。一方で、11月15日に野党4党が長時間労働の罰則強化を新たに盛り込んだ労働基準法改正案を衆院に共同提出した、と新聞では報じられています。

現内閣としても目玉の法案であるだけに、次の国会で改正されることも予想されている「労働基準法」の改正ですが、一部では改悪だといった有識者の意見もありますので、今後の動向を注視しているビジネスパーソンも多いでしょう。

そこで「残業代ゼロ法案」をはじめ、現段階で改正が予想されている内容が、今後、会社の業務にどう影響するのかを、労働基準法に詳しい三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお話を伺ってみました。

*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)

 

■「残業代ゼロ」法案の実務上の影響は少ないと予想

「残業代ゼロ法案」とは、管理職になる一つ手前の「高度専門職」を対象として、労働時間規制を一切適用しない労働制度を創設する法案です。この問題も含めて、現在、提出されている労働基準法の改正法案について法律の専門家はどう考えているのでしょうか。

「『残業代ゼロ法案』については、対象となる業務が限定され、高い年収要件が課される予定であることから、実務上の影響はさほど大きなものとはならないのではないかと思われます。

ただし、中小企業における割増賃金の見直し(月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の猶予措置を廃止)については、実務上大きな影響があると予想されます。法案では『3年後実施』とされていますので、実施までにはまだ間があります。それまでに企業法務的な整備を進めておくことが重要でしょう。

労働基準法の改正は、この他に、長時間労働に対する助言指導の強化や、年次有給休暇の取得促進の規定が設けられる予定です。これらの改正は、最近も連日報道されている労働者の自殺事件を受けて、長時間労働の問題がクローズアップされているところでもあり、実務上の対応が求められるところと思われます。」(伊東弁護士)

残業代ゼロ法案のメリットは、成果主義の導入であり、理論上はそれが長時間労働の是正につながるという考えです。しかし、ブラック企業問題や、サービス残業の問題などが蔓延している状況下での実施は、悪用されるケースもあるのではないかと懸念を抱いている人も多いことでしょう。

その他の改正も、労働環境を改善するために出された法案ということになっていますが、それを本来の意図通りに運用していけるかどうかは、前提として経営者やビジネスパーソンの意識改革も必要になってくると思います。政治への関心が低下してきていると言われて久しいですが、「労働基準法」の改正は、私たちにとって非常に身近な法案です。今後の国会での審議を注視していきましょう。

 

 

*取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)

*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)

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