1カ月にできる残業時間の上限は45時間まで、というと信じられない人も多いのではないでしょうか。
「45時間なんて毎月超えてるわ!」という声も聞こえてきそうですが、そもそも労働基準法では残業は禁止されており、労使間で「36協定」という協定を結んだとしても原則として残業時間は45時間が上限とされているのです。では、それでも45時間以上の時間外労働を強いられている場合は全て違法になるのでしょうか?
この辺りの仕組みについては少し複雑です。そこで、労働基準法や36協定の基礎知識から、これら制度が抱える問題点などについて、今回は労働法務に詳しい桜丘法律事務所の大窪和久弁護士にお話を伺いました。
*取材協力弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)
■労働基準法と36協定のキホン
まず、労働基準法(労基法)や36協定の基本について解説していきます。
「使用者が労働者を1日8時間を超えて、また1週間で40時間を超えて労働させることは原則としてできません(労働基準法32条)。ただし、使用者と労働者の代表(または労働組合)の間で協定を結び、これを労働基準監督署に届け出た場合には、協定内容に沿う形で法定労働時間を超えた労働をさせても、それは違法とはなりません(労働基準法36条1項)。この協定を通称では36協定といいます。」(大窪弁護士)
冒頭でもご紹介した通り、そもそも労基法上は残業を禁じています。ただし、会社と労働者の間で「36協定」という協定を結んだ場合に限り、例外的に時間外労働が可能になるのですね。
■36協定の問題点とは?
では、この36協定はどのような問題点を抱えているのでしょうか。
「36協定では時間外労働の限度に関する基準が定められており、1カ月の場合は45時間、1年では360時間が上限とされています。
ただ、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に備え、協定の中に特別条項というものを定めることができます。この特別条項に関して、時間外労働について上限の制約がありません。つまり、会社は36協定でこの特別条項を定めることによって、事実上無制限の時間外労働を課している場合が多いのが実情です。
この特別条項が長時間労働の抜け道と化しているのは非常に問題だと思います。」(大窪弁護士)
つまり、本来の残業時間の上限は1カ月45時間までと決まっているにも関わらず、36協定の中にある「特別条項」という制度によって事実上は時間外労働がほぼ青天井と化してしまっているのですね。
■違法な長時間労働を会社から強制されたらどうすれば?
もし、36協定に定める限度時間を超える時間外労働を職場から命じられた場合、個人としてどう対応すべきなのでしょうか?
「個人として対応することはなかなか難しいところですので、労働基準監督署に相談するとよいと思います。
36協定違反は労働基準法の罰則対象となりますから、労働基準監督署の方から是正勧告がなされますし、それを使用者が無視すれば会社が処罰を受けることになります。」(大窪弁護士)
個人として会社に対抗するのは難しいので、そこはうまく行政を頼る必要があるということですね。ただ、証拠がなければ行政はなかなかその重い腰を上げてくれないため、相談する際にはタイムカードや出勤簿など自分の労働時間を証明できる何かを持参した方がスムーズに対応してもらえるでしょう。
さて、ここまで労基法や36協定の基本を解説しつつ、長時間労働が起こるカラクリについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
36協定という制度そのものに大きな問題があるのは間違いありませんが、それを知っても長時間労働に苦しんでいる人の現状はすぐには変わりません。一刻も早く現状を何とかしたい場合は、証拠を揃えて早めに労働基準監督署などの行政機関に相談しに行くことをお勧めします。
*取材協力弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。北海道紋別市で3年間、鹿児島県奄美市で3年間公設事務所の所長をつとめたあと、再度北海道に戻り名寄市にて弁護士法人の支店長として5年間在任。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)
*取材・文:ライター 松永大輝(個人事務所Ad Libitum代表。早稲田大学教育学部卒。
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