東九州自動車道インターチェンジ(IC)の料金所に勤めていた契約社員の男性が、2015年10月、「料金所の所長からパワハラを受けた」とする遺書を書いて自殺。遺族は、この男性の勤務先である「西日本高速道路(NEXCO西日本)サービス九州」に対して損害賠償などを求める訴えを、近く福岡地裁小倉支部に起こすとの報道が11月1日にされました。
この事件では、自殺した男性の上司にあたる40代の所長(女性)から執拗なパワハラを受けていたにもかかわらず、それを知りながらも適切な対応を取らなかったとの遺族の声も報道されています。
今回は、このパワハラが本当だった場合、どのような点が損害賠償につながる争点となるのか、また、この男性の勤務先はどのような責任を負う可能性があるのかについて解説したいと思います。
■何がパワハラ(パワーハラスメント)に認定されるのか
パワハラ(パワーハラスメント)というのは、要は職場内での上司の部下に対するあからさまないじめです。
今回の事件で自殺された方は、代理人弁護士や遺族によれば、上司である所長から自分の顔写真を階段の手すり先端に貼り付けられたり、他の職員の前で差別的なあだ名で呼ばれたりしていたとのことです。また、勤務態度を罵倒されたり、被害をパワハラ相談窓口に相談したことに対して他の職員の前で謝罪させられたりもしたということですが、事実であればこれらは当然パワハラに当たると考えられます。
■パワハラが事実である場合、相当悪質だと判断される可能性大
パワハラが事実である場合、そのパワハラが世間一般で許されない位のひどいものであれば、被害者やその遺族は、パワハラをしてきた上司に対し、人格権や良好な職場環境で働く利益が侵害されたことを理由として慰謝料等の損害について賠償請求することができます。
今回、被害者は、被害をパワハラ相談窓口に相談したにもかかわらす、そのことに対してさらに上司である所長によって他の職員の前で謝罪させられたということですので、事実であれば執拗悪質で普通の人でも耐えがたい理不尽なパワハラだと思いますので損害賠償請求が認められやすいのではと考えます。
■会社も損害賠償責任を追う可能性あり
また、今回、パワハラ相談窓口が全く本来の機能を果たしておらず、パワハラ上司が野放しになり、かえって上司の被害者に対するパワハラがエスカレートしたというのであれば、そうした意味のないパワハラ相談窓口を設けてパワハラを知りつつ放置した会社自体も、職場内での良好な職場環境を整備・配慮・改善する義務を怠ったものとして、被害者やその遺族に対して損害賠償責任を負うことがあります。
訴訟においては遺族側の方で、パワハラがあったことやパワハラの内容やパワハラによって被害者が追い詰められて自殺したことを主張・立証していくことになりますが、その主張・立証が認められた場合、パワハラを放置した企業の信用も大きく低下することになるはずです。
パワハラが原因の自殺という痛ましい事件ですが、今後二度と同じような事件が起きないよう、人を雇う側には毅然とした姿勢をとってハラスメントを撲滅してほしいと思います。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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*Kazuhiro Konta / PIXTA(ピクスタ)
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