大きな社会問題となっている、電通の女性新入社員が長時間労働などを理由に自殺した過労死事件において、遺族が請求したのは政府に対する「労災保険給付」でした。
しかし、このような労働災害に対して請求できるのは、政府に対する労災保険給付だけではありません。会社や取締役に対して民事訴訟を起こし、損害賠償請求をすることもできるのです。この会社や取締役に対する民事訴訟のことを「労災民訴」といいます。
今回は、この労災民訴で争点となる3つのポイントについて解説していきます
それでは労災民訴では、過去にどのような事例が問題となっているのでしょうか? 法的に争点となってくる以下の3つの観点から説明していきます。
①不法行為責任(民法709条、715条など)
②安全配慮義務違反(民法415条)
③取締役の第三者に対する責任(会社法429条)
①「不法行為責任」とは、会社の落ち度で発生した労働災害の責任
労働者(労働者が亡くなった場合はその遺族)が、会社の故意や落ち度により労働災害が発生し、それによって被害を被ったとして会社を訴える際によく使われるのが不法行為責任です。
今話題となっている電通では、過去にも長時間労働によってうつ病にかかった労働者が自殺した事件がありました。その事件で労働者の遺族が会社を訴えた際に用いた法的根拠が、この不法行為責任です。
不法行為責任の例としては、Bという労働者がクレーン操作を誤ったため、その落下物によりAという労働者が負傷した場合に、Aは、Bを雇っている会社の責任を追及することもできます(「使用者責任」といいます)。
しかし、不法行為責任を法的根拠にすると、労働者側に不利な点が二点あります。一つは、3年間しか請求できないこと、もう一つは、会社の落ち度を労働者側が証明しなければならないことです。
そこで、労働者側は、次に説明する安全配慮義務違反で、会社側の債務不履行責任を追及するというやり方がよく使われています。
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