人気漫画家、久保帯人さんとは別人の画像を久保帯人さんだとする画像や情報がネット上を中心に広く出回っています。
似ている人の写真に「久保帯人」という説明を合成した、いわゆるコラージュ画像なのですが、これを本人だと思っている人もかなり多い様です。
集英社は誤った情報の拡散が止まらないことから、「こうした行為は久保帯人先生の人格権を侵害する行為であり、悪質な場合には、法的措置も含めて厳しく対処せざるをえませんので、ご注意ください。」という声明を発表しました。
ここで触れられている人格権のうち、今回のケースで問題となってくる肖像権とはどのようなものなのでしょうか?
■肖像権とは何か
そもそも、実は、憲法上も法律上も肖像権を明記した規定はなく、肖像権は判例によって認められた権利です。
有名な判例として、京都府学連事件があり、憲法13条の幸福追求権を根拠として、個人の私生活上の自由として、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有することと示しました。
京都府学連事件は、直接的には、警察官によるデモ隊への撮影行為についての判断ですが、正当な理由なく、他人の容貌をみだりに撮影したり、公開したりすることは、民事上も肖像権侵害の不法行為として、違法とされることがあります。
■プライバシー権との関係
肖像権は、基本的には、自己の容貌をみだりに撮影されず、公開されたりしない権利を内容としており、自己の情報をコントロールする権利であるプライバシー権と重なる部分があります。
もっとも、民事上の不法行為の類型として、肖像権侵害であるのか、プライバシー侵害であるのかを区別することは重要ではなく、要するに社会通念上受忍限度を超えるような権利の侵害と評価できるか否かが違法性判断のポイントとなります。
■他人の画像を掲載する行為
では、本人の顔ではなく、他人の顔を本人として掲載する行為はどうでしょうか。
そもそも、肖像権は、自己の意思に反してみだりに容貌を公開されることで、平穏な生活を害されること、ひいてはプライバシー侵害となることに核心があります。
本人が望まない他人の容貌を本人と偽って掲載する行為は、ある意味本人の容貌を公開する行為よりもなおさらプライバシー侵害の程度が高いともいえ、民事上の不法行為に該当します。
民事上の不法行為は、故意または過失があれば成立しますので、うっかり軽率に間違えたような場合でも、そもそも本人の承諾なく肖像を掲載する行為自体が肖像権侵害を構成しますから、やはり不法行為責任は免れないでしょう。
■誤って掲載されてしまった第三者
とばっちりを受けた第三者についても当然、肖像権侵害もしくはプライバシー侵害の不法行為の責任が生じます。
近年、ネット上で軽率に誹謗中傷をした結果、名誉棄損やプライバシー侵害で損害賠償請求される事案が後を絶ちません。
匿名のネット上であっても、発信者情報の開示を経て、名誉棄損やプライバシー侵害の責任に問われる可能性はあることを知っておきましょう。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)
*画像はGoogle画像検索のスクリーンショット