遺言とは、自分の財産について、自分が亡くなった後にどうして欲しいかを生前に明らかにしておく制度です。
遺言については、遺言をめぐってトラブルが生じないように、遺言はこういった方式でなければならないとか、こういった要件を充たしていなければならないとかが決められており、そうした決まりに従わない場合無効になってしまいます。
遺された人達に向けて、財産に関するトラブル等を無くす為に書いた遺言書が、不備により無効になってしまい、結局トラブルになってしまうということもあり得る話です。
その様な事を無くす為に、知っておきたい基本的な2種類の遺言の方式について解説していきましょう。
■遺言の方式には大きく分けると2種類ある
遺言の方式には、大きく分けると普通方式と特別方式があり、普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
特別方式には、危急時遺言、隔絶地遺言の2種類があります。
実際に利用されるのは、このうちの自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類くらいですので、この2種類についてだけ説明いたします。
■自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付および氏名を自ら書きしるし押印することによって作成する遺言です。
自筆証書遺言は、紙とペンがあれば作成することができますので簡単でお金がかかりません。
自分だけで作成することができますので遺言の存在や内容を秘密にしておくことができます。以上が自筆証書遺言の主なメリットです。
他方、自筆証書遺言の場合、自分だけで作成して他人に知らせておかなかった場合に遺言書が発見されないことがあります。
また、遺言書を自宅に置いていたような場合、偽造・変造されてしまう可能性もあります。
法律についてよくわかっていない者が作成した遺言の場合、方式の不備で無効になったり、遺言の内容をどう解釈するかについて争いになってしまう可能性もあります。
以上の場合、遺言の内容が実現されない可能性があります。
さらに、自筆証書遺言の場合、検認という家庭裁判所の手続を経る必要があります。以上が自筆証書遺言のデメリットです。
自筆証書遺言が無効になる場合としては、自書せずワープロ打ちした場合、自書せず他人に書かせた場合、日付を書いていないか日付が特定できない場合、遺言者による押印がない場合、遺言書作成時に遺言者が15歳未満である場合等が考えられます。
■公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証人、遺言者および証人2人の立ち会いの下に作成される遺言です。公正証書遺言は、公証人の所に遺言書の原本が保管されるので紛失・偽造・変造の危険性がありません。
公証人が遺言の中身をチェックするので方式の不備で遺言が無効になる可能性もありません。
検認の手続も不要です。以上が公正証書遺言の主なメリットです。
公正証書遺言のデメリットとしては、原則として公証役場に証人と一緒に行かないといけない、それなりに費用がかかるといったくらいです。
公正証書遺言の作成には公証人という法律のプロフェッショナル(元裁判官や元検察官等)が関わりますので、方式や内容の不備で遺言が無効になる場合はほとんど考えられません。
公正証書遺言が有効か無効かが争われる場合としては、公正証書作成時点で遺言者に遺言するのに必要な判断能力があったかどうか疑問がある場合くらいです。
その場合でも、公証人は、公正証書遺言作成の際、遺言者と面談して判断能力を確かめているのが普通ですから、裁判で争われたとしても無効になることはほとんどありません。
したがって、後の争いを防止して遺言の内容を確実に実現したいのであれば、多少手間とお金をかけても公正証書遺言がお勧めです。
また自筆証書遺言の場合でも、後日無効と言われないよう、作成の過程をビデオ撮影しておき正常な判断能力がある状態で作成されたものだと証明できるようにしておく、作成した遺言書を弁護士に確認してもらい有効性を確かめておくなどしておくといった対策を採ることをお勧めいたします。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*xiangtao / PIXTA(ピクスタ)