2015年2月末、ホームで電車を撮影していた人に向かって、運転士が暴言ともとれる言葉を投げかける動画がYouTubeにアップされ、インターネット上で話題になりました。
動画では、運転士がフラッシュ撮影したと思われる人に対して「やめてもらえますか?」と問いかけ、撮影者が「すみません」と言うと「すみませんじゃねーよ!」と言い、窓を強く閉めるシーンが写っています。
撮影者に対しては「運転席に向けてフラッシュ撮影するほうが悪い」と非難する意見が多数でしたが、はたして運転席に向けたフラッシュ撮影が違法になるのかについて、私見を述べていきたいと思います。
●フラッシュ撮影を禁ずる規定はない
運転席に向けてのフラッシュ撮影を禁ずる規定は、鉄道各社の旅客運送契約を含む法規に直接の定めはありません。
駅構内での撮影行為を禁じている鉄道会社はあるようですが、明示的な規約として定められているわけではなく、撮影行為を見つけた場合に駅構内の施設管理権に基づく措置が採られているにすぎないので、これに反したからといって即座に違法となるとまではいえません。
●刑事上何かの罪に当たるか
可能性としては、威力業務妨害罪や建造物侵入罪・不退去罪が成立し得ます。
もっとも、記者会見のように何回も連続してフラッシュ撮影を行うなど、具体的に運転業務が妨害されるに足りる行為といえるときでなければ威力業務妨害罪には当たらないでしょう。
また、明示的に「フラッシュ撮影禁止」と規約上定められていたり駅構内に貼り紙がされていたりしなければ建造物侵入罪にも当たらず、駅員さんに「お客さん、危険なのでフラッシュ撮影はやめてください」と何度も注意されても聞かなかったなどの事情がなければ不退去罪も成立しません。
●民事上の損害賠償請求はできるか
民事上の損害賠償請求をするためには、フラッシュ撮影が違法である必要があります。
したがって、フラッシュ撮影がどれだけ列車運行上危険な行為かという点が争点となり、ポイントとしては、(1)撮影回数、(2)フラッシュ撮影の影響によって運転に支障が生ずる程度、(3)撮影行為が禁じられていたかまたは駅員さんが注意していたか等が挙げられます。
●違法にならなくても迷惑行為なのは確か
あくまで私見ですが、少なくとも1回のフラッシュ撮影であれば違法にはならないでしょう。
なぜなら、目にフラッシュを1回浴びても残像が長い時間残るわけではないですし、また、ほぼすべての電車にはATC(自動列車制御装置)が付いているので、車内信号を見落としかつ事故になる可能性はほとんどないといえるからです。
以上のように、運転席に向けてフラッシュ撮影する行為は、よほど多数回にわたるなどしない限り違法にはなりません。
しかし、フラッシュ撮影を注意したり、大事を取って残像が消えるまで発車しなかったりすることが列車遅延の原因となり、乗客に迷惑がかかることはあります。
仕事柄、私は違法とマナー違反とを区別すべきだとは思いますが、列車を撮影する際は、運転席に向けたフラッシュ撮影をしないことはもちろん、その他のマナーも守って行いましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)