事件発生後、弁護士と捜査機関はどのような動きをしている?

千葉県内で32歳の息子と父親が「殺し合い」をして、父親は殺人未遂容疑で、息子は殺人未遂と現住建造物放火未遂の容疑で、それぞれ逮捕されたという事件が話題となっています。

家族内の喧嘩は感情が激しやすく、ともすると大きな事件につながりがちです。とはいえ、家族内の話し合いや環境の調整で、問題が解決できる側面もあり、捜査機関や被疑者を担当する弁護士はどのように対応すべきか、判断が難しい場合も多々あります。

そこで、今回は、このようなケースで、捜査機関や弁護士がどういった対応をすると考えられるか、お話ししたいと思います。

ハンマー

■捜査のポイント:責任能力と正当防衛

今回のケースでは、父親に灯油をかけた息子に通院歴があり、一部報道では、捜査機関は早い段階から精神鑑定を実施することも視野に入れていると伝えられていました。

激高して相手を殺してやろうと思った場合に、とっさに近くにある刃物を手に取ったり、相手の首を絞めたりするのであれば、あまり違和感は感じられません。

しかし、いきなり灯油をかけるという行動は(もしかすると灯油が手近にあったのかもしれませんが)、いささか奇異に感じられます。被疑者が通院中あるいは通院歴ありということであれば、捜査機関は多くの場合、病院から医療記録を取り寄せます。

その内容なども考慮して、刑事責任を問える精神状態だったかどうか判断するために、精神鑑定を行うということは十分に考えられます。

また、父親は、息子に灯油をかけられて、自分や家族の命が危ないと思い、ハンマーで頭部を殴ったといわれています。それが事実であれば、正当防衛が成立すしないかが問題となります。

正当防衛が成立するためには、自分や第三者の命や身体等に対する危険が迫っていること、そして、被害を回避するために手段が「相当」であったこと(つまり、過剰でないこと)など、厳しい要件を満たすことが必要です。

父親がいきなりハンマーで息子が意識を失うほど頭部を殴打したのは、方法として過剰ではなかったかが問題となります。この点については、事件当時の息子と父親のやり取りの状況などによって判断することとなります。

 

■弁護活動のポイント:被害届の取下げと環境調整

家族間の感情のもつれから起きた事件の場合、捜査段階での弁護士の役割は、主に裁判にせずに事件を解決できるよう活動することにあるといえるでしょう(もちろん、被害者が亡くなっている場合は、よほどのことがない限り、このような解決は困難です)。

例えば、今回の件では、息子・父親双方の弁護士が、相手に対する被害届を取り下げるよう説得する、また、このまま同居を継続すると再び父子間で深刻なトラブルが発生する危険性もあるので、別居生活ができるよう環境調整をする、ということが考えられます。

このような対応ができれば、双方とも起訴されずに済む可能性が相当程度あるでしょう。

また、息子の弁護人としては、この段階での不起訴が見込めない場合には、精神鑑定の実施を検察官に働きかける、実施されなかった場合、入院治療が望ましければ、それができるよう担当医と協議するなどといった活動をすることも考えるところでしょう。

今回の事件については、そろそろ、父子について、起訴されたのか、精神鑑定となったのかが明らかとなっているころと思われます。

どんな結論が出ているにせよ、捜査機関にとっても担当弁護士にとっても、対応が難しい事件だったことは間違いないでしょう。報道に現れない事情がどのようなものであったか、弁護士としては、非常に興味深いところです。

 

*著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)

寺林 智栄 てらばやしともえ

ともえ法律事務所

東京都中央区日本橋箱崎町32-3 秀和日本橋箱崎レジデンス709

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