スマートフォン等のデバイスだけではなく、SNSといった誰でも簡単に発信できるツールも普及し、インターネットはわたしたちの生活にとってより身近なものとなっています。しかし、利用者のマナーが問題になることもしばしばあるようです。
先日インターネット利用者に対する意識調査により、約4人に1人がネット上に悪意のある投稿をしたことがあるという結果が明らかになりました。
悪意のある投稿をした場合、どのような責任を負うことになるのでしょうか。また、投稿により被害を受けた人はどうすればよいのか。過去の裁判例を含め解説していきたいと思います。
・損害賠償や名誉毀損罪の成立も
他人を誹謗中傷する投稿によって他人の社会的評価を低下させた場合は、原則として投稿者は民事上の損害賠償責任を負うほか、名誉毀損罪が成立します。
たとえば、個人のブログ主が、自分では真実であると思っている内容を、世の中のみんなに広めたほうがよいと考えて投稿した記事であっても、実際は真実ではなかったことがわかった場合、確実な資料や根拠に照らして真実であると考えたということが裁判所に認められなければ、名誉毀損罪により3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金刑になる可能性があります(最決H22.3.15刑集64巻2号1頁)。
また、名誉毀損罪の成立には事実が摘示されたことを要しますが、「DQN」という事実を摘示しない表現の場合でも損害賠償責任を負うことがありますので、事実を摘示していないからといって法的責任を免れるわけではないことに注意してください(東京地判H15.9.17判タ1152号276頁)。
※DQN=ヤンキーや知能が乏しい人などの意味があるネット用語
なお、損害賠償額や刑の重さは、投稿内容、投稿回数、投稿による社会的評価低下の程度などの要素で決まってくることになります。
・その他の犯罪の可能性
自作自演で「食品に異物が混入していた。どうしてくれるんだ。通報してやる。」などの投稿をした場合は、偽計業務妨害罪や信用毀損罪(及び名誉毀損罪)が成立するでしょう。
また、他人の性的な画像を投稿した場合には、リベンジポルノ防止法違反やわいせつ物頒布罪に当たり、処罰の対象になります。
・他人の投稿で被害を受けたら
まずは情報の拡散を避けるために掲示板やブログの運営会社・個人に投稿の削除を求めることがよいでしょう。警察に被害届を出したくなる気持ちはわかりますが、警察がすぐ動いてくれるとは限りません。
任意で投稿の削除に応じなかった場合は、プロバイダに対し、投稿をした発信者の情報開示請求と送信防止措置(投稿の削除)の依頼をすることになります。
現実的には、こうして投稿者を特定して初めて損害賠償請求や告訴を行うことになるでしょう。
●知らぬ間に誹謗中傷をしているかもしれない
冒頭で触れた調査結果の記事に対し、「4人に3人は自分が悪意のある投稿をしたことに気づいていないのではないか」というTwitterの投稿を見かけました。
必ずしも誰かを傷つけてやろうと思っていなくても、安易にネットへ投稿する行為が犯罪になってしまう場合があります。
発信者情報開示請求により誰が投稿したかはほぼ確実にわかりますので、書込みをする前にこれは誹謗中傷ではないかどうか今一度確認してから投稿するようにしましょう。
*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング。)