大阪府の小学校で、盗撮用とみられるカメラを見つけた職員が教頭に渡した所、カメラをハンマーで破壊するなどして、校長と共に盗撮の事実を隠していたというニュースがありました。
盗撮映像は保存されていなかったと説明していますが、破壊されてしまったため本当に保存されていなかったのかは真実は闇の中となりました。もし破壊したことによって「盗撮の事実はありません」となってしまったとしたら、どんなに怪しくても証拠になるものを隠蔽してしまえばそれで済まされてしまうという事になりかねません。
盗撮の犯人はもちろんですが、このように証拠を隠蔽する行為自体が何らかの罪に問われる事はあるのでしょうか?
■証拠隠滅罪という立派な犯罪
刑法104条は、「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し……た者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する」と規定しています。
これは、刑事事件の証拠隠滅行為は、刑事司法作用を混乱させることから、犯罪として禁止したものです。要するに、捜査を混乱させる行為を防止する、ということです。
ここでいう「刑事事件に関する証拠」とは、まだ起訴されていない事件も含みます。
盗撮犯人は、迷惑防止条例違反に該当しますので、被疑者の氏名が不詳でも、また、実際にはまだ盗撮事件の刑事裁判が開始されていないとしても、盗撮事件の証拠であるカメラを教頭が破壊した行為は、まさに証拠隠滅罪の要件に該当します。
ただ、警察は、まずは盗撮犯人の摘発に力を入れるため、よほど証拠隠滅の悪質性・悪影響が強くない限り、実際に警察が証拠隠滅容疑で立件することはあまり多くないでしょう。
■盗撮犯人の扱い
証拠が破壊されてしまった以上、犯人を特定することは困難かもしれません。
また、仮に犯人が名乗り出ても、他に証拠がないと有罪にはできません。
したがって、法的評価としては、盗撮による迷惑防止条例違反の犯罪が成立しますが、裁判で有罪を立証できない以上、有罪判決を受け、刑事処分を受けることはありません。
ちなみ、上で書いた「仮に犯人が名乗り出ても、他に証拠がないと有罪にはできません」というのは、憲法と刑事訴訟法で自白法則(自白補強法則)のルールがあるためです。
自白の偏重による捜査官の強引な取調べを防止するため、自白以外にも、自白を裏付ける何らかの補強証拠(犯罪事実全部の裏付けまでは必要ありません)がないと、有罪認定してはいけないことになっています。
■刑事以外の処分
刑事での処罰以外に、校長、教頭、実際の盗撮犯人が教師であれば犯人も、行政上の懲戒処分の対象となります。
本件でも、校長と教頭は、停職懲戒処分を受けたようです。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中 国法務、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件等が専門。)