東京駅開業100周年記念Suicaの販売で、購入希望者が駅に殺到し、JRが危険と判断して販売を中止する騒ぎがありました。
そしてその2日後、希望者には全員販売するという発表もあり、徹夜して並んで買えなかった人はもちろん、買った人も怒り心頭だと思いますが、法的に考えた場合、今回の販売中止のニュースについて何か問題はあるのでしょうか。
現地で徹夜して並んでいた人の無念・怒りは別として、常識的に考えればJRの対応はやむを得なかったと感じる人が多数だと思います。今回は、販売中止騒ぎを題材に、そもそも契約成立とは?という点も解説したいと思います。
■販売中止は問題ない
結論からいうと、読者の皆さんの感覚どおり、販売中止にしたJRが民事・刑事の責任を問われることはなく、問題ない対応といえます。
JRと徹夜で並んだけど結局買えなかった人たちとの間には、まだ何ら契約関係がなく、債務不履行責任を負う余地がないからです。
さらに、不法行為といえるだけの権利侵害もなく、不法行為による損害賠償の対象にもなりえません。
■並んでいるだけではJRとの契約成立はされていない
では、「JRが事前に販売告知していたから徹夜で並んだのにひどい」という主張はどうでしょうか。
日常で生活するなかで、契約の成立時点を意識することはほとんどありません。
記念Suicaの販売は、売買契約ですが、民法では、売買契約が成立するのは、申込(購入意思の表明)とJRの販売承諾が揃った時点です。
申込と承諾が合致して売買契約が成立した後は、例え代金支払前であっても、原則として、一方的な記念Suicaの販売中止はできません。
今回は、「徹夜で並んだ人の購入意思は明確で、JRも販売告知して事前に売買契約成立を承諾していたではないか」と思う方もいるかもません。
しかし、法的には、JRのこのような販売告知は、事前の契約成立の承諾ではく、「申込の誘因」にすぎないと考えられています。
記念Suicaの個数には限りがあり、希望者全員が購入できるわけではなかったことからも、販売告知をもってJRの事前承諾があったとみることはできないでしょう。
要するに、販売告知は、購入希望者への広告でしかなく、実際に販売契約が成立するのは、当日、窓口で購入希望者が「記念Suicaください」と言って、JRが了承した時点と評価されます。
今回は、販売契約がまだ成立しておらず、販売中止は、法的に、問題ありません(契約自由の原則から、販売するかどうかはJRの自由です。)。
■徹夜禁止のアナウンスに反して並んだ人への販売
すでに説明したとおり、そもそも、徹夜禁止のルールを破ったか否かに関わらず、まだ並んでいる段階の人への販売中止は、契約自由の原則から法的に問題ありません。
今回JRはそこまでの対応をしていませんが、当然、徹夜禁止のルールに反して並んだ人にだけ販売拒否することも問題ありません。
ちなみに、JRが鉄道を愛する熱心なファンにそこまでするとは思えませんが、徹夜禁止のルールを破るだけではなく、夜間進入禁止の駅構内に無断で立ち入って並ぶことは、建造物侵入罪に問われかねませんので注意しましょう。
*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
*写真は編集部で撮影