理不尽すぎる「職場のいじめ」を弁護士が徹底検証

以前「ブラック臭の強い「辞めさせてくれない」を徹底検証」で紹介した「辞めたくても辞めさせてくれない」は読んでいるだけで苦しくなるような酷い事例ばかりでしたね。

今回も、同じNPO法人労働相談センターなどに寄せられた相談メールからいくつか抜粋し、雇用側に違法性があるかどうか、損害賠償請求等が可能かどうか、検証してみたいと思います。

職場のいじめ

寄せられた相談は、いわゆるパワーハラスメント(略して「パワハラ」)と言われている事例です。

パワハラの定義を厚生労働省は「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」としています。

そして、現在では、厚生労働省指定法人21世紀職業財団がさらに具体的なパワハラの類型を次のように示しています。

(1)公開叱責(多数の面前での叱責)、人格否定、(2)感情を丸出しにするモンスター上司、給料泥棒呼ばわりする、(3)退職勧奨や脅し、(4)無視の命令、(5)困難な仕事を与えて低評価にする、(6)パワハラの訴えを聞き流す。

私自身も、かなりパワハラ案件を扱い、裁判所で戦ってきましたが、裁判で勝つのは多勢に無勢になりますので、なかなか難しいという面があり、できれば裁判になる前に弁護士を通じて申し入れを行った方がパワハラがやむ場合も多いように思いますし、仮に裁判にするのであれば、記録化することで念入りに証拠作りをしていくしかありません。

以前に比べると、メールという便利なものが登場し、メールでの暴言等が容易に証拠化できるようになりましたが、それでも裁判所は昔ながらの「上司の部下に対する指導」という枠をはみ出そうとしません(特に地裁レベルの一審ではそのような傾向にあります)。ですから、パワハラ?と思ったら、早期に弁護士に相談することをお勧めします。

このような前提のもと、少し事例を拾ってみたいと思います。

■1:社長らによる暴言 

販売店勤務8年。「脳みそ腐っている」「バカとしか思えない」「やる気なさ過ぎ」「一緒に仕事するのは無理」「話したくない」・・・等、社長らによる暴言、パワハラの毎日。数年で10人が逃げたり、けんかをしたりの異様な辞め方。もう限界。中には、机の引き出しまでテープで止められた人まで。

これら社長の暴言は、明らかに従業員の人格権を侵害するもので、慰謝料の対象になります。先の類型でいえば、(1)の人格否定ですね.これを証明するためには、社長らの暴言を何らかの形で記録化しておくことが重要になります.隠し録音をする、過去に辞めて行った従業員から同じような経験を話してもらう、社内で目撃者に証言してもらう等の手段を検討してみてください。

机の引き出しをテープで止めるのは、刑事的にも、威力業務妨害罪にあたります。昔、従業員の机の引き出しに、血だらけになった猫の死体を入れたという事例で、同じく威力業務妨害罪にあたるとした判例がありました。

■2:社長の愛人による画策

社長の愛人が、自分が職場を支配したいために、日頃から嫌っている古株の女性社員3名をクビにしようと画策してきている。突然のパートへの降格命令などやることがめちゃくちゃ。

これは先の類型で言えば、(3)にあたります.古株の女性社員を辞めさせるための画策として、全く合理的な理由のないパートへの降格処分は、違法な退職勧奨行為にあたり、実際に辞めざるを得なくなった、自主退職したとしても、慰謝料の対象になります。

■3:上司「黙って働いていろ」 

運送会社。毎日、実働10時間から12時間なのに、賃金明細には「1日8時間」となっている。タイムカードもなく、まともに労働時間の管理をしている感じではない。上司に尋ねたら、「黙って働いていろ」と逆ギレされた。

これも一種の奴隷的拘束であり、(1)の人格権否定にあたるでしょう。法的には、残業代が未払いになっていますので、こちらの請求もできることになります。

ただ、タイムカードがない時点で、自ら残業時間についての証拠を作らざるを得ず、日記等に毎日の出勤時間と退社時間の記録を付けるなどの工夫をしておくべきです。

また、早期に労働基準監督署へ行き、タイムカードなどによる労働時間の適正な管理を会社に申し入れてもらうなどの行動を起こしましょう。

 ■過去に担当した案件では

私が過去に担当した案件では、先の類型でいくと(6)にあたるものがありました。

職場の上司、同僚からパワハラを受け、うつ病になったため、労災申請をしようと上司に相談したところ拒絶された事例、また、パワハラの内容につき上司の言動が本当に正しいのかどうか顧問弁護士に相談したいと上司に申し入れをしたところ拒絶された事例がありました。

場合によってはこれも十分に違法なパワハラと認定されてしかるべきだと思います。

「パワハラ?」と思ったら、まずはなるべく早く弁護士に相談すること。これが一番だと思います。

*参考:NPO法人 労働相談センター : 「職場のいじめ・嫌がらせ・パワハラ」メール相談事例11月分紹介

小野智彦
小野 智彦 おのともひこ

大本総合法律事務所

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