お笑いタレントのイモトアヤコさんが、番組の企画でエベレスト登頂の準備していましたが、4月28日、日テレが中止を発表しました。
準備中の18日に現地で雪崩が発生し、地元のシェルパら13名が亡くなったことを受けての判断です。
当初、企画する日テレは「大丈夫です」「すでに挑戦をサポートするシェルパは確保してあります。イモトさんは登頂へ向けて、高地に順応するための調整を予定通りこなしています」と、当初のプランを崩さない様子でした。
地元のシェルパらは今年の登山を中止すると決めたと伝えられており、現地のプロですら中止の判断をしたエベレスト登山ですが、もし仮に本来の予定通り「強攻策」とも言えるプランで登山をしていた場合、命に関わる大きな危険にさらされる事になります。
このように、明らかに危険性がある業務命令を行うことは法的に問題がないのか、検討してみたいと思います。
イモトさんがエベレストへの登頂を準備していたのは、日テレの番組の企画ということであり、これは日テレの業務命令に基づくものです。この業務命令権は、労働者が自己の労働力を使用者に委ねることを約束した労働契約に法的根拠が求められます。
しかしながら、労働契約があるからといって、どのような業務命令権でも発動できるわけではありません。その業務命令権が合理的な範囲を超えたような場合には、業務命令権の濫用ということになり、もちろん無効になります。したがって、無茶な業務命令には、違反しても懲戒処分等の対象にはならないということになります。
エベレストでは、最近大規模な雪崩が発生し、現地のガイドが今年の登山を中止するような騒ぎになっています。
これは、イモトさんの生命・身体に対する危険を伴う業務命令と言うほかありません。仮に、日テレ側が、現地を入念に調査した上で、その危険が必ずしも大きいものではないとしても、その意に反して義務の履行を強制されるものではありません。
今回は、もし決行されるのであれば、相応の危険手当などを受け取って現地入りすることになったのですが、お金には代えられない大切な命、中止したのは日テレとしても賢明な判断だったと思います。
*著者:弁護士 小野智彦(銀座ウィザード法律事務所。浜松市出身。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。)