昨年8月、ホテル阪神の料理人の男性が倒れて死亡し、これをきっかけに、前月の7月に、この男性が月101時間の時間外労働をしていたことが発覚しました。労働基準監督署は、ホテルの男性総支配人と運営会社の阪急阪神ホテルズを、労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
被疑事実は「労使協定で定めた上限の月60時間を超える時間外労働を男性にさせた」というものです。
今回は、労使協定で定めた上限を大きく超えた時間外労働が問題となりましたが、そもそも、労働時間については、法律上どのような定めがあるのでしょうか。また、「労使協定」とはどのようなものでしょうか。
■労働時間についての法的規制
労働基準法では、原則として、使用者は、労働者を、休憩時間を除いて、1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはならないと定められています。これは「法定労働時間」と呼ばれています。
さらに、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等について定めることも義務付けられています。この場合に定められる労働時間を「所定労働時間」と呼びますが、これは、当然、上記の「法定労働時間」の範囲内で定めなければなりません。
使用者が法定労働時間の定めに違反して労働者を労働させた場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
■労使協定とは
上記のような原則的な労働時間の定めに対して、労働基準法にはいくつかの例外が定められていますが、そのうちの1つが時間外・休日労働についての労使協定です。
この労使協定とは、使用者が従業員の代表と結ぶ書面による協定のことをいいます。具体的には、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、これがない場合には、労働者の過半数を代表する者と使用者が協定を結ぶことになります。
時間外労働についての労使協定が締結されている場合には、労働者の労働時間が法定労働時間を超えたとしても、労使協定で定められた範囲内であれば、違法にはなりません。
ただし、労使協定によっても、時間外労働を際限なく認めることはできず、例えば、1か月では、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合を除き、45時間以下でなければならないとされています。
■労使協定の効果
労使協定が締結・届出されており、かつ、就業規則に「業務上やむを得ない事由があれば労働者に時間外労働をさせることができる」という内容が定められている場合、その就業規則の規定が合理的なものである限り、労働者は時間外労働の義務を負うというのが判例です。
ただし、労使協定で定められた範囲内であったとしても、時間外労働が行われた場合には、使用者は時間外の割増賃金をきちんと支払わなければなりません。
そして、使用者が労使協定で定められた時間数を超えて労働者を労働をさせた場合には、やはり6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
今回は、このケースに該当したため、書類送検されたということになります。
このような残業時間の定めについては、普段あまり意識せず、上司に言われるままに残業を行っているということも多いのではないかと思います。
理不尽に長時間の残業を課せられていると感じる場合、毎日の残業時間をきちんと記録しておくとともに、一度ご自分の会社ではどのような労使協定が定められているのかを確認してみてはいかがでしょうか。