8月に入り、新しい職場で勤務している人も多いのではないでしょうか。なかには、ヘッドハンティングのような形で同業他社に移籍した人もいるかもしれません。
企業としては自社の情報や戦力を同業他社に取られることで、大変な不利益を被る可能性があります。そのため、退職するにしても別の業界に勤務するよう指導することがあるようです。
他社に行かないよう念書を書かせるケースも
メーカーなど独自の技術を持つ大企業になると、社員が退職する際「同業他社では仕事をしない」「一定期間は同業他社にいかない」ことを約束させ、念書を書かせることがあると聞きます。
このような行為については「職業選択の自由を阻害している」との指摘があり、憲法改正の批判もあるのですが、「防衛策」として横行しているようです。
念書にサインをしなければ「給料を払わない」と脅迫
そんな防衛策に悩んでいるのが、大手企業に勤務するAさん。
会社を辞める意思を伝えたところ、総務担当者から
「辞めるなら、同業他社に就職しないという誓約書にサインしてほしい。サインしないのなら最終月の給与は支払わない」
という信じ難い通達を受けました。
Aさんは自分のスキルを活かすには同業他社への転職が最適と考えており、この措置を断固として受け入れることはできないと考えているとのこと。まして、勤務した分の給料を払わないなどと脅すことは、非常に受け入れ難く、強い憤りを覚えています。
同業他社に転職する念書にサインすることを頑なに拒む社員に対し、給与の不払いをチラつかせて威圧する。
こんなことが許されるのでしょうか? 法律事務所あすかの冨本和男弁護士に質問してみました。
弁護士の見解は?
冨本弁護士:「許されません。給料は従業員の生活に必要不可欠ですので、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされています。
誓約書へサインと引き換えにすることは許されません。このような行為を受けた場合、労働基準監督署か弁護士にご相談ください」
弁護士への相談を
給与支払を盾に誓約書へのサインを強要することは違法行為になる可能性が高く、許されません。
このような措置を受けた場合は労働基準監督署、もしくは企業法務に精通した弁護士への相談がベターです。
なお会社が退職する社員に同業他社への転職を禁止する行為については、
①企業秘密を有する立場にあること
②期間地域が限定されていること
③競業禁止の対価が支払われていること
この3つの要件を満たすことが必要と言われています。
大抵の場合、就業規則や雇用契約書で、競合他社に就職することは認めるが、元の顧客に対してのみ営業活動を行わないというかなり限定した条項になることが多いようです。
企業が秘密保持などの観点から社員を同業他社に取られたくないという気持ちも理解できますが、違法な形で社員を縛ることはマイナスになります。
企業側も弁護士に対応策を相談することをおすすめします。
*取材協力弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)