借地権の対抗要件、建物登記だけで大丈夫?

当社は、小売り事業を営んでいる会社です。

この度、郊外の幹線道路沿いの数筆の土地を一体として借りてその一部に自社店舗を建築のうえ、残部をそのまま店舗駐車場に利用することとしました。

地主との契約条項の協議も終えてこれを当社取締役会に諮ったところ、社外役員から、「第三者に土地が売却された場合、駐車場については継続利用できなくなるリスクがあるのではないか」との指摘がありました。私としては建物の登記さえ備えれば大丈夫と考えておりましたが、そのようなリスクはあるのでしょうか。

 

借地借家法10条1項に基づく建物登記を通じた借地権の対抗力の範囲について、判例は、その建物登記の所在として記載されている土地の範囲と判断しており、社外役員の方が指摘するリスクは存在します。

これに対しては、土地賃借権の登記や仮登記といった手段により対応することが考えられますが、最終的には、具体的事情(リスクが顕在化した場合の損失の程度、リスク顕在化の蓋然性、対策に係るコスト等)を勘案して決定することとなります。以下で、解説させていただきます。

 

1.借地権の対抗力

民法は不動産の賃借権について、これを登記しなければ第三者に対して対抗できないと定めています(民法605条)。

 

もっとも、賃借権の登記について必ずしも賃貸人の協力を得られるとは限らないこともあります。そのため、借地借家法は、建物の所有を目的とする土地賃借権については、借地上に賃借人名義の登記がなされている建物が所有されていれば、土地賃借権を第三者に対抗できると定めています(借地借家法第10条第1項)。

 

2.対抗力の範囲

では、今回のケースのように、複数の地番の土地を一体として借り受けて、その一部の地番の上にのみ建物を建築した場合、残部の地番の土地にも対抗力が及ぶのでしょうか。

 

この点について、判例は、建物登記を通じた土地賃借権の対抗力は、その建物登記において建物の所在として記載されている土地の範囲において生じるものと判断しており(最判昭44.12.23)、建物の敷地を基準としています。

 

したがって、今回のようなケースでは、駐車場部分には土地賃借権の対抗力が及ばないと判断される可能性があり、社外役員の方が指摘したリスクは存在することとなります。

 

なお、建物が借地の一部に存在する場合においても、複数の地番が一体的に利用されている等の事情がある場合には、当該土地の買受人が明け渡し請求をすることは権利の濫用として認められないと判断した判例もあります(最判平9.7.1)。しかし、裁判所による具体的事情の認定に左右されることから、上記のようなリスクの存在自体を打ち消すことはできません。

 

3.リスクへの対策

このようなリスクへの対策ですが、第一には、借地借家法による建物登記を通じた対抗要件の確保ができない以上、民法の定めに従い、土地賃貸人の協力を得て駐車場部分に土地賃借権の登記を行うことを検討するべきです。これにより、駐車場部分の土地が第三者に売却されたとしても、土地賃借権を対抗することができます。

 

ただ、効力的な限界を認識のうえ、具体的な事情によっては、土地賃借権の仮登記にとどめる場合もあります。土地賃借権の設定登記の登録免許税は土地の価格(主には固定資産課税台帳に登録された価格)の1,000分の10とされているところ、仮登記の場合にはこの半額となるため、コストや他の事情を考慮のうえ、このような選択肢を選ぶケースも生じます。もっともこの際には、仮登記を本登記にできるための条件や方法などに関する、賃貸借契約の条項の定め方が重要となってきます。

 

さらには、駐車場部分を喪失した場合の事業上の影響がごく軽微で、またコストも最小限に抑えたいといったケースにおいては、賃貸借契約の条項における損害賠償請求の手当のみとなるケースもあるものと思われます。

 

このように、対策については単一の要因により決定することは容易ではありません。具体的な複数の要素(リスクが顕在化した場合の損失の程度、リスク顕在化の蓋然性、対策に係るコスト等)を会社として整理のうえ、あらかじめ、賃貸人との賃貸借契約の条項を検討する必要があります。

 

著者:センチュリー法律事務所 小澤亜季子(東京弁護士会所属)

依頼者の皆様の不安を少しでも取り除けるように、お気持ちに寄り添い傾聴すること、なるべく早く具体的な解決策を提案すること、そのための費用がいくらかかるのかを明確にすることを心がけております。

プロフィール:http://century-law.com/lawyers/akiko_ozawa

 

小澤 亜季子 おざわあきこ

センチュリー法律事務所

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