大阪地震でも頻発! 災害時の「出勤命令」に従う必要があるのか弁護士が解説

6月18日午前7時58分、大阪北部を震源とする『震度6弱』の地震が発生。強い揺れは、住民に大きな影響を与えました。時間が通勤ラッシュと重なったこともあり、電車に閉じ込められる、車が動かなくなるなどして、会社にたどり着けなくなる人も多かったようです。

交通機関が混乱している状況下では当然出勤は難しく、途中帰宅や自宅待機は致し方ないこと。ところが大阪地震の際には「上司からなにがなんでも出勤しろと言われた。」「出勤できないとメールしたら『気をつけて出社してね』と返ってきた。」など、出勤を促された人も多かったようです。

地震など、自然災害で出勤が難しい場合自宅待機は当然だと思われますが、それを無視する形で会社に来るよう促す行為は違法にならないのでしょうか?

パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。

■災害時の出勤命令に従う必要があるのか?

櫻町弁護士:「まず前提として、使用者は、労働契約や就業規則に基づき、労働者に対して指揮命令を行う(業務命令を出す)ことができますから、例えば、地震等の災害発生時において、災害によって損壊した事務所の復旧作業のために出勤を命じられた等の場合にも、基本的にはこれに応じる義務があるといえましょう。

ただし、生命や身体、健康に危険が及ぶ可能性があることが具体的に予見される場合には、業務命令に従う必要はないとされています。

この点について、昭和31年、日本と韓国の間を結んで敷設されていた海底ケーブル修理のため、千代田丸という修理用船舶で出航を命じられた電電公社(現NTT)の当時の職員が、(当時は)日本と韓国の間に軍事的緊張があり、海底ケーブルが敷設されている海域を航行した場合、攻撃等を受けて生命、身体に危険が及ぶ危険があるということで当該出航命令を拒否(ただし、最終的には予定出航時間から25時間遅れで出航)したことを理由として解雇されたという事案で、最高裁判所は、

『現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、この危険がたんなる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず」、「動乱終結後においてなお、この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからにほかならない、というべき」とした上で、「かような危険は、双方がいかに万全の配慮をしたとしても、なお避け難い軍事上のものであつて、海底線布設船たる千代田丸乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い』

として、出航命令に従うべき義務は認められないと判示しました(最高裁昭和43年12月24日判決・判タ 230号191頁)。

ですから、出勤して業務に従事することで生命や身体、健康に危険が及ぶ可能性があることが具体的に予見される場合には、出勤命令を拒否したことによって業務命令違反に問われる可能性は低いと言えるでしょう。」

 

■安全配慮義務違反を問われる可能性

櫻町弁護士:「労働契約法第5条は『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。』と規定しており、使用者は、業務遂行に際して労働者の生命等に危険が及ばないように配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っています。

ですから、出勤・就労によって労働者の生命等に危険が及ぶことが具体的に予見できたのに、あえて出勤・就労を命じた結果、労働者が怪我をしたような場合には、使用者が『安全配慮義務違反』として損害賠償責任を負う可能性があります。

この点について、昭和54年7月、熊本県人吉市大塚町において、人吉営林署の職員5名が乗車したマイクロバスが土石流に押し流され川に転落し、職員5名が死亡したという事故について、大雨洪水注意報が発令されているにもかかわらず、林道の補修作業等に就労するよう命じ、降雨のため山が崩壊するなどの危険が発生したにもかかわらず下山を命じなかったことなどが安全配慮義務違反にあたるとして損害賠償請求がなされた事案で、

裁判所は、

『通勤路、職務の内容からみて降雨、風、雷等の気象状況によつては、作業員の生命、健康等に危険の及ぶことが予測されるから、被告は前記安全配慮義務の一内容として当日の天候、気象予報、通勤路、現場の状況等から判断して、当日就労させることにより職員の生命、身体に現実に危険が及ぶ高度の蓋然性が認められる場合には、職員を就労させない義務を負いまた一旦就労させたのちにおいても、気象状況等の変化に伴い、そのまま就労させていることにより職員の身に危険が及ぶ高度の蓋然性が認められるに至つた場合には、その後の就労を中止し、下山その他の措置をとり安全を確保すべき義務を負うものというべく』

と判示しています(熊本地裁昭和60年7月3日判決・判タ 567号230頁)。

ただし、

『被災者5名を就労させたことは相当であつて、安全配慮義務に反するものということはできず、また、就労後における豪雨及びこれによる災害の発生を予測しなかつたことについて同主任に故意、過失があるものとは認められない。』

として、結論としては損害賠償責任が否定されています。

したがって、使用者においては、震災等の災害が生じた場合には、情報収集により事態の的確な把握に努めるとともに、安易な出勤命令を出して労働者の生命等を危険にさらすことのないよう、留意すべきといえましょう。」

 

■最後に

櫻町弁護士がおっしゃるように、経営者や管理職者は、自分の出勤命令で部下が生命の危険に晒されることにならないかどうか、きちんと考える必要があり、それを怠った場合は安全配慮義務違反となります。

そして労働者は基本的には会社の言うことに従う義務はありますが、身体、健康に危険が及ぶ可能性があることが具体的に予見される場合には、業務命令に背いても問題ありません。

混乱時だからこそ、お互いに相手に配慮した対応が求められます。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

*画像はイメージです(pixta)

 

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