“女の痴漢”。あまり聞きなれないですが、
- 電車の揺れに合わせて股間を触られた
- 電車の壁にもたれていたところ、あとから入ってきた女性に手のひらを股間に5、6分間置かれた
実際に上記のような被害を受けた男性もいるようです。実は、この手の相談を弁護士として受けたこともあります。
こういった、女性から男性へのわいせつな行為に対して、「この人痴漢です!」ははたして通用するのでしょうか?
わいせつな行為をされたのであれば男女問わず罪に問える
電車は、公の場所といえますので、公の場所におけるわいせつな行為は、迷惑防止条例違反、強制わいせつ罪(刑法第176条)などに該当しえる行為です。問題は、女性から男性へのセクシャルな行為が、わいせつといえるほどのものかどうかです。迷惑防止条例違反も、都道府県自治体が制定している行為ですが、その対象については「何人も」と規定しています。ということは、実は、女性のセクシャルな行為も、該当しえる行為といえるのです。
刑罰は、下の通りです。
東京都迷惑防止条例(正式には、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の略称です):6ヶ月以下の懲役、または、50万円以下の罰金
強制わいせつ罪:6ヶ月以上10年以上の懲役
暴行罪:2年以下の懲役、または、30万円以下の罰金
なお、『条例』とは、地方公共団体が独自に定めるルールになるので、適用場所、内容は異なりますが、これらには男女の制限はありません。そのため痴漢したのが男性だろうと女性だろうと刑罰の対象になるのです。
ちなみに、わいせつな行為とは、その定義は、13歳以上のものに対して、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をする、13歳未満に対しては、暴行や脅迫をしていなくても適用されると定められています。簡単にいうと“相手の許可を得ずに自分の性的好奇心を満たすために相手に接触すること”です。ちなみに許可があれば、これに該当しないことになります。
電車内で痴漢してきた女性を訴える場合にはリスクがある
「痴漢をされたらその女性を突き出すべきか?」と聞かれると微妙なところでしょう。その理由は、『逆に罪が成立してしまう可能性があるから』です。
もし、痴漢された男性が電車内で「この人、痴漢です!」と女性の手を持ち上げて主張したとしましょう。そうすると女性のほうは「そんなことするわけないじゃないですか」などと否定することが考えられます。
やった、やってないの水掛け論になったときには、 “どちらの主張のほうが信用性が高いかが判断の鍵” になります。少し難しい用語ですが、「供述の信用性」といわれます。
恥ずかしい思いをしながら訴えている被害女性の供述はどうしても、信用性が高いと思われがちでしょう。
否定するだけならまだしも、「違います。痴漢をしてきたのはこの人です!」と、逆に主張されてしまうと、さらに問題が複雑化してしまいます。
こうなると、男性の立場が急激に悪くなるという状況が想像できますよね。その後、駅員室に両者とも呼ばれて、男性がやってもいない痴漢で誤認逮捕される可能性も生じてくるでしょう。
場所を変えて、オフィス内などの顔見知りが多くいる場所での痴漢行為なら、目撃者の証言女性から“一体どちらが痴漢をしたのか”、正当な判断がされやすいです。
しかし、電車内となると、基本的に赤の他人しかいない空間です。また、痴漢犯罪のほとんどは男性が加害者なので、“普通女性は痴漢しない”とか、“痴漢するのは男性に決まっている”といった先入観を多くの人が持っています。今後も法律や条例が改正されたり、男性専用車両が作られたりなどの手段も一応は想定されます。もちろん、理不尽と感じることもあるとは思います。これらをどうにかするためのルールが必要とされ、明記されることもあるでしょう。
ただし、現在そのようなものはほとんどありません。”痴漢に遭わないような対策”と”痴漢に間違われないような対策”を引き続き自分自身で行っていく必要があるでしょう。
*弁護士監修/ 銀座さいとう法律事務所 齋藤健博弁護士(弁護士登録以降、某大手弁護士検索サイトで1位を獲得。LINEでも連絡がとれる、
*執筆/シェア法編集部
*画像はイメージです(pixta)