住居や店舗を借りる時は不動産業者に仲介してもらうことが一般的ですが、持ち主と直接契約を結ぶことも可能です。初期費用節約のため、直接交渉による契約を好む持ち主もいるようです。
しかし不動産契約のプロフェッショナルである不動産業者がいないことで、トラブルが発生する可能性も。今回は、持ち主との賃貸契約トラブルについて、星野・木川・長塚法律事務所の星野宏明弁護士に伺いました。
口約束でも契約は成立
貸店舗の持ち主と出会い、空く予定の店舗を3カ月後から借りるという口約束をした。借りる予定の1カ月ほど前に詳細確認の連絡をしたところ、やはり他の人に貸すことにしたと約束を反故にされてしまった。この場合、契約は無効になるのでしょうか?
「一般論としては口約束でも契約は問題なく成立します。裁判を考えるなら、証拠がないという問題は残りますが。」(星野宏明弁護士)
民法では、契約を結ぶ双方の意思表示があれば契約は成立することになります。契約書を作らない口約束も、立派な契約なのです。
口約束を反故にされたら損害賠償できる?
上記のケースの場合、開店を見込んで備品や従業員などをすでに手配しており損害が出ていたとしたら、損害賠償を求めることはできるのでしょうか?
「賃貸借契約の成立が立証できることを前提とすれば、貸主の契約締結後の債務不履行となりますので、損害賠償の請求は可能です。
備品や従業員手配に要した費用は基本的に請求できますが、実際の裁判では、他店舗へ流用できる備品でないか、配置転換できる人員ではないかどうか、などといった細かい点も損害論として争点となるケースがあります。」(星野宏明弁護士)
損害賠償請求などで裁判する場合、やはり口約束の証拠を示す必要があるのですね。正式な契約書でなくても一筆書いてもらうなどしておくほうが確実でしょう。
口約束での賃貸借契約は避けるべし
「当然のことですが、口約束の賃貸借契約はまず避けた方がよいでしょう。
早めに契約を決めること自体は物件確保という意味から悪いことではありません。しかし、入居予定を前提に費用を支出してしまうと、万が一債務不履行を起こされた場合は、面倒な損害賠償請求をしなければならなくなることは認識しておく必要があると思います。」(星野宏明弁護士)
面倒な手間を省こうとして、後からさらに手間がかかってしまう場合もあります。口約束でも立派な契約であることは確かですが、賃貸借契約などやりとりする金額が大きいものは特に、口約束ではなく、早めに契約書などを作成するべきなのです。
*取材協力弁護士:星野宏明(星野・長塚・木川法律事務所(旧星野法律事務所)。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。