日本で『携帯してはいけない』と決められているもののなかには、「え!これもダメなの?」と意外に思うものも含まれています。例えば、包丁や違法ドラッグは誰が見ても、『携帯してはいけない』と分かりますよね。
しかし、『メリケンサック』はどうでしょう。
読者のなかには「誰が持つの?」「普通は携帯していないでしょ?」と考える方もいると思いますが、実際に携帯していたら補導されてしまったという話がネット上に投稿されました。
メリケンサック所持は違法なんですか?友人が警察に捕まってましまいました。職質されて、『護身用』に持ってるだけで検挙されてしまうなんて理不尽な世の中ですね。
(引用:メリケンサック所持は違法なんですか?|Yahoo!知恵袋)
メリケンサックの携帯で補導されるということは、他の似たような道具も補導の対象になるのでしょうか。この記事では『理由もなく携帯していたら逮捕・補導の対象になるもの』や『どのような法律に違反しているのか』、水田法律事務所の河野晃先生に伺いました。
■理由もなく携帯していたら逮捕・補導の対象になるものは?
以下のようなものを理由もなく所持していた場合は、逮捕・補導の対象になります。
- 警棒(物干しざおも該当する)
- スタンガン
- 催涙スプレー
- 木の棒(他人に危害を加え武器として判断された場合)
- 強酸性・強アルカリ性の薬品(洗剤なども)
- 毒性がある植物(トリカブトなど)
『護身用』とされている警棒・スタンガン・催涙スプレーも逮捕や補導の対象になり得ますので注意しましょう。
◆河野晃先生)
バットを持っているだけで軽犯罪法の処罰の対象となり得るという話もあります。かくいう僕も、いわれのない職務質問(僕は下戸なのに、後ろからついてきたパトカーに「ふらついているから止まれ」と言われた。日曜日で警察署に接見へ行く最中でした。笑)で車を止められ、トランクを開けろと言われ、バットが入っているのを見て「これ、何に使うの?!」と言ってきたことがあります。
普通に「野球に決まってるでしょ」と言って弁護士バッジを見せたらバツが悪そうに帰っていきましたけど。笑
ちなみに警察の職質に関する権限ですが、警察官職務執行法という法律が職務質問の根拠となります。
「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」
引用元:警察官職務執行法
この場合の警察の言い分は、「車の運転がふらついている」⇒「飲酒運転が疑われる」⇒「合理的に判断して飲酒運転という犯罪を犯している」という理屈です。
■メリケンサックの携帯は『軽犯罪法』に違反している
上項で紹介したものは、下の条文である『軽犯罪法第1条2』に違反しています。
二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
引用:軽犯罪法第1条2
『生命や身体に重大な危害を加える』と判断されてしまえば、全て違法になります。なので、武器としてつくられたメリケンサックを携帯していると、例えファッションの一部であったり誰かに危害を与えるつもりがなかったりした場合でも、『生命や身体に重大な危害を加える』と判断されるため逮捕・補導の対象になってしまうのです。
また薬品なども、生命や身体に危害を加えるものとして判断されますので逮捕・補導の対象になります。
【関連記事】軽犯罪法違反になる意外な行為と処分・罰則内容を解説
■携帯を認められる『正当な理由』とは
では、携帯を認められる『正当な理由』とはいったい何なのでしょう。正当な理由として以下のようなものが挙げられます。
- 警官・警備者が職務上持つ場合
- 社会通念上(一般的に考えて)正当な理由がある場合
- 購入して家に持ち帰る途中だったなど
上記のようなものが、『正当な理由』に該当します。なので、基本的に「町中を歩く際の護身用として。」という理由での携帯を認めていません。
しかし、例外もあります。2008年に行われた裁判で内容は、以下の通りです。
被告は正当な理由がないにもかかわらず、午前3時頃催涙スプレー1本をズボンのポケットに隠し携帯していたことから軽犯罪法に違反しているとされ、裁判が行われた。
参考:文献番号 2008WLJPCA03196011
一審では、有罪の判決を受け9,000円の科料に処せられましたが、最高裁では無罪として一審の判決を破棄するという結果になりました。
無罪になった理由として、被告が職務上・日常生活上催涙スプレーが必要であった、専門メーカーから護身用として製造されたなど携帯する理由や用途が護身用と明確なところを考慮し、携帯するのが正当な理由に当たると考えられたからです。
また、この裁判を経て『正当な理由』に該当するかは、以下の要素も考慮し判断すべきと考えられるようになりました。
- 日常生活や周囲の状況(時間・治安状態)
- 携帯していたものの用途や性能
- 隠して携帯していた日時・場所・態様・動機・目的・認識
メリケンサックの場合、日常生活に必要といえず、用途自体武器となってしまい、社会通念上でも携帯することがよいと判断する人は少ないでしょう。ただし、催涙スプレーなど状況によって『正当な理由』と判断される可能性は十分にあります。
◆河野晃先生)
妥当な内容でしょうね。「護身用」という目的に照らして合理的なものかどうか、ということですね。例えば先ほどのバットのケースでも、バットケースに入っていて、キレイに保管されている、ボールの跡もついている(野球に使っていることが明白)という場合と、ボコボコにヘコミもあって野球に使えないような形状で、血の跡がついているような場合、判断が分かれる可能性はあります。
■違法ドラッグに似ているものをあえて携帯していた場合は?
無記名の袋に入った白い粉や錠剤をみたら何を想像しますか?
警察からみたら大体の人は違法ドラッグに見えてしまうでしょう。このようなものをあえて携帯したり警察に見せつけたりするような行為は、違法行為に該当する可能性があります。実際に2017年にそのような事件が起こりました。
JR福井駅そばで8月、覚醒剤に見せかけた白い粉末入りのポリ袋を警察官の前で落として走り去り、警察に追跡や職務質問をさせて業務を妨げた。当時の様子を撮影した映像は「覚醒剤いたずらドッキリ」と題して動画サイト「ユーチューブ」に投稿され、100万回以上再生された。
引用:覚醒剤ドッキリ「啓発のため」 ユーチューバー無罪主張|朝日新聞
このような行為は、刑法第233条の信用毀損及び業務妨害(偽計業務妨害罪)に該当します。これは、『虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者(刑法第233の条)』を罰する法律です。
裁判では、偽の情報で警察の業務を妨害したことなどこの法律に該当するとして、犯人に罰金40万円の罰金を命じました。
違法ドラッグに限った話しではありませんが、あえて逮捕・補導の対象になるものを所持し警察の業務を妨害すると違法行為として、罰金に処せられる可能性があります。
■まとめ
携帯を禁止されているものは、例え自分に危害を加えるつもりがなくても他人を傷つけてしまう可能性が高いものです。また、メリケンサックなどの『武器』と認識されるものは例え、ファッションであっても周囲の恐怖を煽り、もめごとの原因になったりします。
外に出る前に、「これを携帯していたら周囲はどう思うのか…。」ということをしっかり考えることが大切です。
*取材協力弁護士:水田法律事務所 河野晃弁護士(兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活8年目を迎える。敷居の低い、気軽に相談できる弁護士を目指している。)
【画像】イメージです(いらすとや)