さまざまなことが○○ハラスメントと呼ばれ、言動に気を使わなければならない世の中になりましたね。年々その種類は増加し、いまや現状でいくつあるのかもわからないほどとなってきました。
すると不安になるのは、知らぬ間にハラスメント行為をしているのでは…?ということ。
この記事ではセクハラやパワハラなどのメジャーなものではなく、『あまり知られていないハラスメント』を、センチュリー法律事務所の佐藤宏和弁護士のコメントと共にご紹介します。
『してしまっているかもしれない』方も、『されているかもしれない』方も知っておけば対策を打てますので、ぜひとも参考にしてください。
新型パワーハラスメント
とうとう出てきました、新型。旧型(と呼ぶのが正しいのかはわかりませんが)のパワハラは上司が部下、先輩が後輩に上の立場であることを使って精神的・身体的な苦痛を与える行為でしたね。
その新型とは何かと言いますと…
「頑張ります!」とやる気を見せている部下や後輩に対して、「もういいから、帰りなさい。」とそのやる気に応えようとしない上司・先輩の言動です。
昔の自分を見ているようだ…と張り切りすぎている部下・後輩に優しさをこめて言った言葉が、「新パワハラだ!」と言われかねないですね。
そう言った言葉は状況と相手を見て使い分けましょう。
佐藤先生)
厚生労働省が平成24年1月に公表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によれば、職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義され、その行為類型として、
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害、(過大な要求)
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
などが挙げられています。
この場合、⑤の(過小な要求)に該当するか否かがポイントとなります。
法的な問題とされるには、当事者(被害者)が主観的に「苦痛だ」と感じるだけでは足りず、客観的に見て「業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と言える必要があります。本件のように、部下に対して「もういいから、帰りなさい。」と言うだけでは、人間関係上のトラブルにはなり得るとしても、法的な問題とまでは言えないでしょう。
もっとも、上司の主観的な思い込み(この人は仕事ができない、など)に基づいて、合理的な理由なく部下に仕事を与えない状態が長期化し、周囲から見ても部下が精神的苦痛を感じている様子が客観的に認められるような場合は、法的な問題に発展する可能性もあると考えられます。
一口に「ハラスメント」と言っても、人間関係上のトラブルと法的な問題とは、行為の性質・態様や被害の程度等に差があることを理解する必要があります。
テクノロジーハラスメント
通称『テクハラ』。これは、コンピューターやスマートフォンなど現代のテクノロジーに詳しい人がそうでない人にするハラスメント行為。「マジか!お前iPhoneすら使いこなせないわけ?」と言ったり、難しいコンピューター関係の専門用語を淡々と難しく解説した上で「なんだよ、こんなことすらわかんないのかよ。」と言ったりすると『テクハラ』にあたります。
自分が当たり前のように使いこなしていたり、知っていたりするとついついわからない人の気持ちがわからない、となってしまいますよね。でもその押し付けをしたらハラスメントです。人間には向き不向きがあるということをしっかりと理解してコミュニケーションをとりましょう。
「テクハラも訴えることができるのでしょうか?」
佐藤先生)
法的な問題になり得るか否かは行為によって違いはあまりなく、特定の人に対し不合理に精神的・肉体的苦痛を与え、相当程度の損害が生じたことが客観的に認められるか否かで判断すべきでしょう。
本件では、「マジか!お前iPhoneすら使いこなせないわけ?」、「なんだよ、こんなことすらわかんないのかよ。」といった、相手を侮辱するような言動が含まれておりますが、こうした言動が日常的に繰り返し行われ、職場での地位や人間関係等が理由で、被害者がこれを回避したくても回避できないような状態に追い込まれている場合は、法的な問題に発展する可能性はあると言えます。
セカンドハラスメント
「なにのセカンドだよ!」と思いますよね。「セクハラ」のセカンド、二次被害です。セクハラをされたことを訴えたことに対し、「あんたが誘ったんじゃないの?」などと言うこと。セクハラを声を大にして言う方は、きっと我慢の限界になるまで追い込まれている方でしょう。苦しい思いをしてきた人に対して追い討ちをかけるようなことはしてはいけません。
佐藤先生)
セクハラ等により精神的・肉体的苦痛を受けたと主張する人は、一般に、自分への批判や攻撃に対して敏感になることが多いため、セクハラの被害者に対し配慮のない発言を向けることは、当初のトラブルとは別の新たなトラブルを生み出しかねないため、避けるべきでしょう。
法的な評価としては、「あんたが誘ったんじゃないの?」などと言うだけで不法行為が成立する可能性は低いと思われますが、仮にセクハラが法的な問題に発展した場合、共同被告として訴えられるリスクがゼロではないことに留意すべきです。
時間短縮ハラスメント
通称?『じかハラ』。会社側が時残業をさせたくないがために、社員に対して「早く帰れ!」と帰らせる、もしくは帰らそうとすること。
ここ最近、労働に関しての取り決めが厳しくなり、なかなか残業させてもらえなくなりました。働く側としては、「早く帰れるなら帰ってるよ!帰れないのはそんだけ仕事を課されているからだ!」と嘆きたくなりますよね。
早く帰れと言われるのがハラスメントなのか、早く帰れないほどの仕事を課されるのがハラスメントなのか…。
佐藤先生へ)
新型パワハラと同様、社員に対して「早く帰れ!」と帰らせる、もしくは帰らそうとすること、それ自体が「ハラスメント」として法的な問題になる可能性は低いと思われます。しかし、とても処理しきれないほど大量の仕事を課しておきながら、社員を早く帰らせ、社外で作業をせざるを得ない状況に陥らせて会社が残業代の支払を免れているとすれば、会社の外で行われた残業代の未払いという法的な問題が発生します。
また、社員に帰宅を求める行為の態様が不合理に精神的苦痛を与えるようなものであれば、これが繰り返し行われることで、他の行為と併せて総合的に不法行為を構成する可能性は否定できません。
アカデミックハラスメント
通称『アカハラ』。大学教授が教授という立場を利用して、学生に嫌がらせを働く行為。課題の提出が迫っているのにそれに必要な設備などを使わせない、学生が書いた論文を教授自身の名前に書き換える、などがあたります。
そのほかにも、不当に低い評価をしたり、単位を与えなかったりしてもアカハラとなります。大学の単位はときに人生が左右されることもありますから、こんなことをされたらたまったもんではないですね。
「アカハラが原因で単位をおとす、留年、さらには内定取り消しとなった場合学費や慰謝料などを請求は可能ですか?」
佐藤先生)
大学には、憲法23条の「学問の自由」を背景に、「大学の自治」(大学内で起こったことに関しては大学内で解決するべきということ)が認められると解されています。
このため、紛争があっても一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題(一般的な社会から確立した組織のなかで起こる問題)にとどまる限りは、その自主的、自律的な解決に委ねるのが適当で、司法審査の対象にはならず、法的な問題として裁判所に訴えることはできないとされています。
したがって、設備の利用不許可、論文の執筆者決定、成績評価・単位付与などの是非を巡る紛争が、最終的に一般市民法秩序と直接の関係を有し法的な問題になり得るか否かは、事案に応じてケースバイケースで判断することになりそうです。
もっとも、教授という、学生に対する優越的な地位を利用し、合理的な理由なく学生に精神的・肉体的苦痛を与えれば、職場でのパワハラの場合と同様に、一般市民法秩序と直接の関係を有する紛争(組織内の紛争ではなく、一般市民として問題視されるべき紛争であるということ)として、慰謝料請求の対象になり得ると思われます。
富山大学単位不認定事件(昭和46年(行ツ)第52号 最高裁昭和52年3月15日大法廷判決)
「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であつて、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、叙上説示の点に照らし、明らかというべきである。」
富山大学専攻科修了不認定事件(昭和46年(行ツ)第53号 最高裁昭和52年3月15日大法廷判決)
「国公立の大学は公の教育研究施設として一般市民の利用に供されたものであり、学生は一般市民としてかかる公の施設である国公立大学を利用する権利を有するから、学生に対して国公立大学の利用を拒否することは、学生が一般市民として有する右公の施設を利用する権利を侵害するものとして司法審査の対象になるものというべきである。」
フォトハラスメント
通称『フォトハラ』。他の人を断りもなく撮影し、SNS上に無断でアップすること。「みんなで撮ろー!」と言って集合写真を撮ってSNSにあげてもこれにあたります。集合写真を断るというのは至難の技ですから、強制的に写らされたと言われる可能性だってあります。
SNSにアップする際にはきちんと許可を撮りましょう。
「ハラスメント以前に肖像権の侵害にはならないのですか?」
佐藤先生)
内心はともかく本人が集合写真の撮影に参加したなら、当該写真が他人の閲覧の対象となることに対して黙示的に同意したと考えられるでしょう。SNSに集合写真がアップされるのは社会通念上予見可能なことですから、これを理由に「肖像権が侵害された」、「プライバシーが侵害された」と主張するのは難しいと思われます。
もっとも、集合写真ではなく隠し撮り写真であるとか、相手の不意を突いて勝手に撮影した写真であったり、集合写真であっても他人に知られたくない情報が含まれるものを、本人の許可なく不特定多数の人に閲覧させたりした場合は、肖像権侵害またはプライバシー侵害の問題として、不法行為が成立する可能性があると思われます。
ラブハラスメント
通称『ラブハラ』。恋バナをするなかで、自分の価値観を押し付け相手の考えを否定すること。「ヒール履かなきゃ男は寄ってこないよ〜?」「いつでもキレイにしてないと彼氏に愛想尽かされるよ!」(筆者経験談)という発言はれっきとしたラブハラです!
こんなことを言われたら腹が立ちますよね。余計なお世話です。
「異性に対して言うとセクハラになるのでしょうか…?」
佐藤先生)
他の例と同様に、特定の人に対し不合理に精神的・肉体的苦痛を与え、相当程度の損害が生じたことが客観的に認められるか否かで判断すべきです。自由意思に基づく友人・知人の関係ではいつでも相手との関係を断つことができると考えられます。
そのような関係の場合、自分の価値観を押し付け、相手の考えを否定する発言をしただけでは不法行為などの法的な問題に発展することは考えにくいでしょう。
もっとも、この様な発言が、何らかの社会的拘束力を有する人間関係の下で繰り返し行われた場合、法的な問題に発展する可能性は否定できません。
ゼクシャルハラスメント
通称『ゼクハラ』。由来はそう、某結婚雑誌。わざわざ彼氏の見えるところに結婚雑誌を置いておく行為をはじめ、なにげなく両親に会わせて「両親にあいさつしたし!ね!ね!?」とプレッシャーをかけて結婚を迫る行為。彼氏と何年も付き合って、お互いいい年になってきた…という女性は結婚への不安でついついやってしまいそう。ですが、これもハラスメントになります。
これで「ゼクハラだ!訴えてやる!」とはなかなかなりそうにないですが…実際のところどうなのでしょう?「嫌なら逃げればいいじゃん」となるのでしょうか?
佐藤先生)
他の例と同様に考えれば、自由意思に基づく交際関係の下で、単に結婚を求める行為が法的な問題となる可能性は低いものと思われます。しかし、関係性を断つことが客観的にみても困難であると判断される、何らかの特殊な人間関係の下で、相手の意思に反して結婚を強要するための他の行為と併せて、本件のような方法で結婚を迫る行為がなされた場合は、それらが全体として不法行為を構成する可能性まで否定できるものではないと思われます。
■佐藤先生に聞いた|ハラスメント問題への見解
ハラスメントの事例は、具体的にどの行為がいわゆる「ハラスメント」として不法行為等の法的な権利侵害行為にあたるかの見極めが困難なケースが多いと言えます。
従業員が同僚との間で衝突したり、陰口を言われたりという状況が続いたことを「モラルハラスメント」と主張し、同僚及び会社に対し謝罪と損害賠償を求めた事例がありました。
この場合、具体的にどの行為が「ハラスメント」で、それらがどのように「損害」と因果関係を有するかの見極めが難しいため、訴訟手続等で法的な権利侵害行為が認められる可能性は高くないと言えます。
結局、この事例は法的に「ハラスメント」の問題ではなく、労働契約の終了に関する問題として処理されました。「ハラスメント」の問題が、単独では法的に捉えにくい問題であり、他の法的な問題の一部として紛争の引き金になり得ることを示す典型例であると思われます。
まとめ
「ハラスメント」自体が不法行為なのではなく、「ハラスメント」によって精神的苦痛や、肉体的苦痛などの損害を被ったかどうかで法的に問題視されるか否かが判断されるのですね。ただ単に「その発言は○○ハラスメントだ!」というだけで不法行為とされることはないようです。
逆に、何かを言われて、あるいは何かをされて、精神的に耐えられなくなった場合は不法行為として認められる可能性がありますので、困っている方は弁護士に相談してみるのも解決への糸口になるかもしれません。
ご紹介したほかにもまだまだたくさんのハラスメントがあります。あなたも無意識にハラスメント行為をしてしまっているかも…!?
どんな言動も、時と場合、そして相手との関係性を考えてしなければいけませんね。
*記事監修弁護士:センチュリー法律事務所 佐藤 宏和(東京弁護士会所属。米国公認会計士(未登録)の資格所持。不当解雇や残業代請求などの労働問題を得意とする。業務内容や社内の力関係を理解し、膨大な事実の中から法律上意味のある事実を見つけ出し、事件をスピード解決へと導くことに重きを置いています。)