某国民的アニメキャラクターのそっくりグッズや着ぐるみが中国で横行し、「著作権侵害だ!」と一時期話題になりましたね。
マンガやアニメ作品のパロディを描いた同人誌。これもまた「著作権侵害なのでは?」とうすうす疑問に思ってしまいませんか?
日本において同人誌が文化の1つとされる現代まで、なぜ同人誌が生き残って来たのか。今回はそんなちょっとタブー感のある話について言及していきます。
この記事の法律に関する内容は法律事務所あすかの冨本和男先生に監修いただきました。
著作権についての詳細はこちら→『著作権とはなにか | 侵害に当てはまるものと当てはまらないものについて』
そもそも同人誌とは?
同人誌に対して私たちが持っているイメージは『アニメやマンガのキャラクターをファンがエッチな感じに描いたもの』といったところじゃないでしょうか? 実際に、最近ではそういったものが大半を占めるようになりました。
元々は明治時代に、文学好きの人々が自費で小説や短歌などを発行したものを同人誌と呼んでいました。
同人誌の祭典であるコミックマーケット(通称コミケ)で販売されているものには、そのような文学的作品もありますし、マンガやアニメのパロディでありながらもエロティックシーンがないものももちろんあります。
さらには好きなものについてまとめたもの(航空機や鉄道など)や、ただただ趣味で書いたもの(回文の作り方や円周率についてなど)もあり、一概に『アニメやマンガのキャラクターをエッチな感じに描いたもの』とは言えません。
とはいえ、ここではアニメ・マンガのパロディ作品の同人誌に焦点をあてていきますので、同人誌は『アニメ・マンガのパロディ作品』として認識していただければと思います。
どこからが著作権の侵害?
どこからもなにもありません。誰かが制作したものをコピーしたりアップロードしたり、真似をしたりしただけで著作権侵害にあたります。
ここで問題なのは、『訴えられなければ罪にならないのか』『著作権を侵害した時点で罪になるのか』という点。
結論から言えば、『著作権を侵害した時点で罪』になります。しかし、著作権侵害は『親告罪』。当事者の訴えがあって初めて、これは著作権侵害ではないか!と立件されるのです。
つまり、同人作家がマンガやアニメのパロディを描いて収入を得ていたとしても、原作者が「著作権侵害だ!」と言い出さない限り罪には問われないということですね。
親告罪についての詳細はこちら→『親告罪の仕組みと該当の罪一覧|親告罪では示談が有効』
もし訴えられたらどうなるの?
もし訴えられてしまった場合、『著作権の侵害』として民事上で裁判にかけられるか、刑事事件として処罰されます。民事上では損害賠償などが請求され(請求額はケースごとに異なります)、刑事事件では10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が課されます(出版物の場合)。
同人誌は違法
同人誌は違法か、違法でないか…結論は『違法』です。
しかし、『親告罪』であるため、「原作者が訴えなければ、何も始まらない、だけど訴えられたら終了。」そんなギリギリのラインで同人作家さんたちは制作・販売しているのですね。
実際に訴えられ、販売中止された作家もいます。最悪の場合罪に問われたり、損害賠償請求をされたりしてしまうことだってありうるわけです。
ちなみに、年2回のコミケで何百万も稼ぎ、1年の収入源としている方もいるそうですよ。もし訴えられてしまったら…考えるだけでぞっとしますね。
同人誌はなぜ生き残って来たのか?
そもそも同人誌を買う人はどういう人でしょう?
そう、そのアニメやマンガが好きな人です。クールでシリアスな悪役たちがゆるゆるっとした日常を過ごしていたり、原作ではあまり出番のない登場人物が主人公であったり、はたまた好きなキャラクターがエッチなことをしていたり…作品のファンの妄想を可視化させてくれるのが同人誌。
原作が好きな人が買うものなのです。(好きな同人作家の作品を買う、という人もいますが。)
逆に、コミケに行って好きなアニメ・マンガの同人誌を買おうと向かう道すがら、他のブースの同人誌を見て「なにこのキャラ超絶かわいい!買う!っていうかなんのキャラ!?」と、同人誌から原作に興味を持つ人だっているでしょう。
つまり、原作者にとって大きなデメリットはないですし、むしろメリットが生まれるかもしれないのです。
芸能人がモノマネ芸人に真似されたら少し大物になることができた、というのと同様に、自分の作品の同人誌が売れたら自分の作品もまた人気が出てきた、といった感覚もあるのでしょう。
だから訴える原作者は少ないですし、『見て見ぬ振り』をあえてしているのですね。
同人作家の味方『同人マーク』
TPP交渉で著作権侵害が非親告罪化とされる(訴えがなくても著作権侵害として公訴される)可能性がでてきました。
これでは同人誌の訴訟があちこちで起こってしまう!と対策を打って出たのが、『魔法先生ネギま!』(講談社)で有名な赤松健先生。赤松先生は「このマークがある作品は作者本人が同人誌作成を認めています。」という意思を示す『同人マーク』を考案したのです。
これはあくまでTPPに日本が参加する可能性(この辺りの話は言及すると長くなるので割愛します。)を見据えて施行されたもの。これがなければ同人誌にしてはいけない(法的には違反なのですが)、原作者が訴えますよ、というわけではありません。
同人作家としては安心して制作できるありがたいマークですよね。
まとめ
同人誌が違法か違法でないかの観点でいくと違法です。しかし、その同人誌がこれまで残って来たのは、きっと原作者・同人作家・作品のファン、みんながその作品を『愛しているから』なのでしょう。
その上で成り立っているものですから、原作者や作品のファンを不快にするもの、利益を損なうものを作ってしまったら訴えられてしまうこともあります。
コミケは2018年の夏の開催でなんと94回目。毎年多くの人々が同人誌を求めて来場しています。アニメ・マンガが日本の文化として認められている現代。その素敵な文化をさまざまな方向から盛り上げて行ってほしいものですね。
*取材協力弁護士先生/冨本和男先生(法律事務所あすか 企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
*取材・執筆/鈴木 萌
*画像 Graphs/PIXTA(ピクスタ)
※自作したイラスト(オリジナルキャラクター)を使用して撮影しています。