会社が給料を払わない…こんなときどうすればいい?

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働いた分だけ対価を払うのは企業にとって当然の義務ですが、経営状況が悪化すると、給与支払いが滞ることがあります。

労働者側としては死活問題となるだけに、早急な支払いを求めるわけですが、悪質な経営者の場合、そのまま逃げてしまうことも。

自分の勤務している会社がこのようなことになった場合、焦って冷静な判断ができないかもしれません。そのようなとき、どのような対応をとればいいのでしょうか。

パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に見解をお伺いしました。

 

■どのように対応すればいい?

「まずは、使用者に“給料支払いが遅れているので早く支払ってもらいたい”と促すことになると思いますが、なんだかんだと理由をつけて払おうとしないようなら、強制的に支払わせるための手段を講じることになりますね。

強制的に支払わせるというのは、つまり、使用者の財産に“強制執行”をかけて給料の回収を図るということになりますが、強制執行をするためには、原則として“債務名義”と呼ばれる文書が必要となります。

債務名義とは、例えば裁判所の判決が典型ですが、要は“強制執行をしてもよい”と公的なお墨付きを与えた文書のことです。

では、債務名義を得るためにはどうしたらよいかですが、“支払督促”や“少額訴訟”といった裁判手続きを利用するのが手段としてあります」(櫻町弁護士)

 

■支払督促や少額訴訟が有効

「“支払督促”というのは、賃金や家賃のように支払われるべき金額が決まっている場合に、申立人(賃金の場合は労働者)の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方(使用者)に支払いを命じる略式の手続です。

支払督促は“書類審査のみ”で手続が進みますので、訴訟などのように裁判所に出向いたり証拠を提出したりする必要がなく、比較的簡単な手続きといえます。

ただし、相手方が“異議”を出してきた場合には通常の訴訟に移行することになりますので、異議が出される可能性が高い場合には、最初から通常の訴訟を提起するほうがよいといえます。

また、“少額訴訟”というのは、“60万円以下の金銭支払請求”の場合に利用できる裁判手続きで、原則として1回の裁判期日で審理を終えて直ちに判決を言い渡しますので、通常の訴訟に比べればスピーディーに解決が図れます。

ただし、少額訴訟では証拠(雇用契約書や給与明細書、タイムカードといったもの)を揃えて提出する必要があり、また、支払督促と同じく、相手方が通常の訴訟を希望した場合には通常の訴訟に移行することになります(また、紛争が複雑であるなどの理由から、裁判所の判断で通常の訴訟に移行することもあります)」(櫻町弁護士)

 

■先取特権も認められている

「給料については“一般の先取特権”というものが認められています(民法306条2号)。

先取特権とは耳慣れない単語ですが、これは一種の“担保権”(ほかに、抵当権や質権などがあります)であり、上で挙げたような、裁判手続きを経て債務名義を得ることなしに、いきなり強制執行をすることができるという権利です。ですから、支払督促や少額訴訟よりもさらにスピーディーに給料の回収を図ることができます。

手続きとしては、裁判所に対して、先取特権に基づき使用者の財産(例えば銀行預金)を差し押さえるという命令を出してほしいという申立てをします。

申立てが認められるためには、自分が労働者として先取特権を有しているということを証明する必要がありますが、東京地方裁判所のウェブサイトには、「雇用関係の先取特権の存在について、申立人が証明すべき事実及び一般的な証明文書の例」というページがあり、先取特権の存在を証明するために必要な書類が例示されています。

これによれば、“雇用契約の存在”については、雇用契約書、労働者名簿、雇用保険申請書など、“給料額の定め”については、賃金台帳、過去の給料明細書、給料明細の記載された給料袋、給料の銀行振込みを証明する預金通帳等、所得税源泉徴収票、就業規則等の賃金規定など、また、「労務の提供」(つまり、使用者のために働いたこと)については、出勤簿、勤務日程表、勤務日数が記載された過去の給料明細書など、によって証明することとされています。

なお、上述したいずれの手続きを取るにせよ、雇用契約書が作成されていなかったり、給与明細を交付してもらいっていない、あるいは、タイムカードによる勤怠管理がされていない等、必要な書類が完全ではない状況があるかもしれませんが、泣き寝入りはせず、まずは弁護士に相談してみるのがよいと思います」(櫻町弁護士)

 

働いた分の報酬をもらい受けるのは労働者の権利。給与が支払われない場合は、泣き寝入りせず、法的手段にでましょう。

 

*取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。)

*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)

 

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