世の中には「全国を股にかける仕事」というものがあります。飛行機や新幹線、あるいは自動車に乗って、津々浦々を回る。「羨ましい」という声もありますが、遊びではないだけに、苦痛に感じている人も多いことでしょう。
とくに海外などかなり遠方となる場合は、移動だけで1日が終わってしまうこともあります。当然、移動時間も出張扱いとなるはずです。
しかし、零細企業に勤めるMさんは、出張先での仕事が終わり、本来休みである土曜日に1日かけて帰宅して、代休をとったところ、社長から「移動だけなんだからその日は出勤にはならない。有休扱いにする」と言われたそう。
当然Mさんは激怒したのですが、社長の権力で押し潰されてしまったそう。移動だけの時間は、勤務時間にならないのか。そして代休支給の必要性はないのか?
いずみ法律事務所の小泉始弁護士に真相を聞いてみました。
■移動だけの日は出勤にはならない?
「一般に出張は直行・直帰の場合には自宅を出発したときから自宅に帰着するまでが出張時間であり、抽象的な使用者の業務遂行となるものの、使用者の現実の具体的な指揮命令の下における業務の従事時間ではないことから、所定労働時間の労働とみなされることになります。
そして移動時間については、使用者が労働者に出張旅行のために利用する交通機関の種類、乗車時間について、所定就業時刻後のものを指定して出張命令したようなときであっても、この場合の命令は、その列車等の中での行うべき用務を指示したものではなく、旅行して目的地に着くことが指示内容であり、労働内容を具体的に特定して指示したものではなく、所定労働時間内の労働とみなされることになります。
したがって出張のための一日移動であって、所定労働時間内の労働とみなされ、休日出勤したことにはならないことになります」(小泉弁護士)
■代休は与えなくても良い?
「移動時間等について命令があった場合であっても、交通機関に乗車中は自由に休息しておればよく、拘束時間であるとしても労働基準法上の労働時間には該当しない休憩時間に類似した時間と解されていることから、時間外手当・休日の支給対象となる実勤務時間にはあたらないことになります。
なお例外的に、移動中に会議の準備をするよう指示がなされていたり、物品等を運搬すること自体が目的である場合や一度会社に出勤してから出張したり、出張先から会社に立ち寄ることを指示されている場合には、当該移動時間も実勤務時間に該当することになります」(小泉弁護士)
移動だけの出張時間は原則として実勤務時間にはあたらず、休憩時間に類似した時間ということになりますので、仮に時間がかかったとしても時間外手当や休日の支給対象にはならないそう。
Mさんのケースの場合、“休日に移動”をしているものの、休日に労働しているわけではないので、必ずしも代休を認める必要はないことになります。
もっとも、事実上拘束されている時間であることや出張者の過労防止や身体的負荷軽減の観点からは、やはり何らかの手当を支給したり、代休を認めるなどの配慮をすることが望ましく、そのような措置をとっている会社も多くあると思います。
世の中には権力で社員を押しつぶそうとするブラック社長がいます。そんな人間と戦うために、しっかりとした法律の知識を身につけたいものです。また、経営者も同様に社員に法の範囲内で気分よく仕事をしてもらえるようにするべきでしょう。
*取材対応弁護士:小泉始(いずみ法律事務所代表弁護士。目の前に起こったトラブルに1人で悩み不安な毎日を過ごされていることと思います。そんな時の為に、弁護士はいます。依頼者を守る「折れない頑丈な傘」として、お役にたてるよう全力で向き合います。まずは、お気軽にご連絡ください)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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