先日、あるプロ格闘家が交際相手の職場に勤める男性に暴行を働き、逮捕される事件が発生。男性は顔面を蹴られたうえ、手で壁に突き飛ばされてしまい、重篤な状態が続いているそうです。
このようなプロの格闘家や空手・柔道の有段者など武術に優れた人間が一般人に対して暴れることは、非常に由々しき事態。当然、罪も重くすべきであると思われます。
実際のところ、法律はどうなっているのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士に見解をお伺いしました。
■プロの格闘家が傷害事件を起こした場合罪が重くなるのか?
「まず、暴行を加えた場合には暴行罪(刑法208条)が、暴行にとどまらず傷害まで負わせた場合には、傷害罪(刑法204条)が成立し成立する罪は、一般人であろうとプロの格闘家であろうと変わりません。
暴行罪は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」が、傷害罪が成立した場合には「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されるとされています。
具体的な刑は、刑事裁判にてその暴行・傷害に至った経緯や態様、傷害の程度など、諸般の事情を考慮した上で決められるので、「プロの格闘家である」という事実は、1つの事情として考慮され、その暴行態様が、一般人が同じことを行った場合よりも危険性が高いとして認定される可能性はあると思います。
ただし、そのことは暴行に至った経緯やその格闘家が置かれた客観的状況などから決められ、たとえば多数人に囲まれた状況で急迫した身の危険が迫っていたような場合には、正当防衛が成立する余地も当然あり得ます。
罪が成立する場合であっても、他の全ての事情をさて置いて、「プロの格闘家である」という事実のみをもって刑が重くなることはなく、あくまで総合的に判断されることになるでしょう。
その意味では、昔より「プロボクサーは拳が凶器とみなされるから、たとえ絡まれたとしても抵抗できない」などと語られることがありますが、誤った解釈といえると思います。
なお、かのガッツ石松さんは、世界チャンピオンになる前に喧嘩騒ぎを起こして逮捕されたことがあるそうですが、それは8人もの酔漢に囲まれてのやむを得ない正当防衛だったとして、送検される前に釈放となったそうです。
プロ格闘家と比べるべくもありませんが、筆者も憲法の勉強をする前に拳法をかじったことがあります。
格闘技はあくまで己の心身を磨くためのものですから、自分より力が弱い相手に対し、ことさらにプロ格闘家としての力を発揮するなんてことは、格闘家の風上にも置けないだろうという思いがありますし、実際の裁判で罪を重くする情状として斟酌されてしまうリスクは低くありません。
かのハリウッド映画「スパイダーマン」でも「大いなる力には大いなる責任が伴う」と語られておりますが、与えられた力を世のため人のために活用していてもらいたいものですね」(大達弁護士)
基本的に加害者がプロ格闘家であるということだけで罪が重くなるということはないようですが、危険性が高いと認定される可能性あるようです。
格闘家や武道に優れた皆さんは、自分が特殊能力を持っているということを自覚し、正当防衛が許されるような条件でないかぎりは、一般人に暴力を振るわないようにしてください。
*取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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