6月14日、無資格であるにもかかわらず40年間にわたり司法書士や弁護士活動を行っていたとして、81歳の男が逮捕されました。
何よりも驚きなのは、資格がないにもかかわらず依頼者の目を誤魔化し続けていたことと、誰も気が付かなったということ。
今回は相続についての提案が間違っていたことに気がついた親族が警察に相談したことから発覚しましたが、知識がない人が「弁護士だ」と紹介されると、その発言に疑問を持たない人が多いようです。
日々真面目に業務をこなしている弁護士としては、憤りを隠せない事件ではないでしょうか。星野法律事務所の木川雅博弁護士に、今回の件についてお聞きしました。
■弁護士でない者は報酬獲得目的で法律事務をしてはならない
「弁護士資格がないにも関わらず40年にもわたり弁護士活動をしていた男が、弁護士法違反や司法書士法違反で逮捕されたことを知りました。40年間も無資格で活動していたことがわからなかったのはなぜかについて解説します。
弁護士の資格なしに、報酬を得る目的で反復継続して法律事務を行うことは、弁護士法違反(いわゆる「非弁行為」)となり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(弁護士法72条等)。
ここにいう法律事務とは、債権回収や賃料交渉、賃借物件からの立退き交渉など、あらゆる法律事件に関する交渉、手続代理のことをいいます。
非弁行為が罰則の対象となる理由は、なんら規律に服さない資格のない者により、事件関係者の利益や法律秩序が害されることを防止するためです。医師が医師免許なしに医療行為を行ってはならないのと同様に考えるとわかりやすいと思います」(木川弁護士)
■40年間もばれなかった理由とは
「非弁行為については、各弁護士会設置の非弁護士取締委員会によって取り締まりを行っています。
当然のことながら、警察や委員会が非弁行為を認知しなければ取り締まることはできませんから、事件関係者が無資格であることを見抜き、弁護士や弁護士会に相談しなければ発覚しないことになります。
そして、一般の方は、弁護士であると紹介され、名刺を渡されたら“本当に弁護士ですか?”と疑うことはないと思いますし、たとえ身分確認をしたいと思っても、紹介者や非弁護士の手前、なかなか言い出せなかったりすることもあったと思われます。
逮捕された男は年間300万円程度の売上だったと供述しているようですので、事件処理数や取扱規模が小さかったことも発覚しなかった要因の一つだと考えられるでしょう。
また、非弁護士は、かつて司法試験合格を目指していたり、不動産業を営んでいたり、債権回収業者に勤務していたりする等、一定の専門知識と実務の運用を知っている者であることがほとんどですから、依頼者にとってよい結果となるよう事件を処理することができてしまう場合があります。
現在は減っているようですが、ある地域では非弁護士の“ゴロつき”が多くおり、共同で法律事務を含む事業を行っていると聞いたことがあります」(木川弁護士)
■弁護士資格の有無を確かめる方法は?
「現在は、インターネットが使えるのであれば、日弁連が提供する『ひまわりサーチ』というウェブサイトから、簡単に弁護士資格の有無を確認することができます。
同サイトに(自称)弁護士の氏名を入れて、登録番号や事務所所在地などの登録情報が確認できなければ、その人間は非弁護士ということです。
インターネットが使えない方であれば、記章(弁護士バッジ)を確認したり、日弁連または各弁護士会発行の身分証明書を確認させてもらったりすることが有効ですが、偽造されている可能性もありますので、所属弁護士会を尋ね、当該弁護士会に電話で確認するほうが確実だと思います。
非弁護士による事件処理は、たまたま依頼者にとっていい結果となることもありますが、結果がよくとも手続の適法性や報酬額の適正さが担保できません。
また、依頼者にとってはいい結果でも、相手方当事者の無知に乗じ、通常であればあり得ない金額や条件での和解・示談となることも多いので、非弁行為による法秩序破壊は著しいといえます。
ですから、やはり非弁行為を許しておくことはできませんので、もし万が一被害に遭いそうになったり、非弁行為を見つけたりした場合は、弁護士会に連絡していただければと思います」(木川弁護士)
たとえ問題が解決したとしても、無資格の弁護士活動は違法行為。見かけた場合は、弁護士会に速やかに連絡しましょう。
また、木川弁護士によると、『ひまわりサーチ』というサイトで弁護士資格の有無を確認できるそう。相談する際は、活用してみてはいかがでしょうか。
*取材協力弁護士:木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
【画像】イメージです
*まなな / PIXTA(ピクスタ)
【関連記事】
*あなたの会社は…?「ブラック企業」かどうか判断する4つのポイント