先日、都立高校の約6割が入学時に生徒の髪の色やパーマが「地毛」であるかどうかを確認するため、「地毛証明書」を提出させていると大手新聞社が報じ、驚きの声があがりました。
学校側は規律を守るためなどの狙いから入学時に証明書の提出を求めているようで、一定の理解も得られている模様ですが、「時代錯誤だ」「人権を無視している」など、否定的な意見もあり、賛否両論となっているようです。
様々な意見があるようですが、法的にみてどうなのか。エジソン法律事務所の大達一賢弁護士にご意見をお伺いしました。
Q.都立高校で行われているという「地毛証明書」の提出。違法ではない?
A.裁判では違法とされない可能性が高い。
「“合法性”という意味においては違法とまではいえないのだろうと思われます。
その理由として、まずおおもとに、「国公立である、私立であるを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである」と判断をした判例があります(※1)。
これに追従するような形で、小中高校においても学校の学則制定における包括的権能を認めている下級審判決が多く存在します。
例えば、ある判決(※2)は、「生徒の服装等について規律する校則が中学校における教育に関連して定められたもの、すなわち、教育を目的として定められたものである場合には、その内容が著しく不合理でない限り、右校則は違法とはならない」としており、男子の髪型について「丸刈」と規定していた校則は憲法に違反せず、また違法性も認められず、校長の裁量権の範囲内と判断しています。
そのため、現在の都立高校における頭髪に関する校則も違法であるとはされない可能性は高いといえるでしょう。また、校則が適法だとしても、校則を遵守させるための手段が適法である必要があります。
この点について、校則に違反してパーマをかけた生徒に対し、自主退学勧告をした行為について、校則違反の態様、反省の状況、平素の行状、従前の学校の指導及び措置などを勘案して違法性を判断しており、結論として自主退学勧告は違法ではないとしています。(※3)
さらに他の判決(※4)は、茶髪に染めてきた公立中学校の女子生徒に対し、学校で生活指導教諭らが学校内で当該生徒の髪を黒に染髪した行為について、生活指導の域を出るものではなく何ら違法性はないと判断しています。
これらの事例と比較すると、地毛証明書の提出を要求する行為は、生徒の権利侵害がより少ないということもでき、上記各裁判例を踏まえると、裁判上は適法であると判断される可能性が高そうです。
ただ、私見としては、髪型や髪色を変えることによって非行が助長される、ということは考えにくいと思います。そもそも、原則として黒髪であるべきだという発想自体、ボーダレスな現代社会の風潮において違和感を覚えます。
「教育」=「管理」ではなく、教育とは個性を伸ばすことに重きを置きつつ、社会の一員としての自覚や責任を身に付けさせることだと思っています。「教育」に頭髪がどうあるべきかということの管理まで含ませる必要性はあまり高くはなく、地毛証明書まで求めることには疑問を覚えます」(大達弁護士)
地毛証明書の提出させる行為は、違法性は認められる可能性が低いものの、法律の専門家からみても違和感を覚える行為のようです。読者の皆さんは、どのように感じているでしょうか。
※1:最高裁判所 昭和49年7月19日判決 ※2:熊本地方裁判所 昭和60年11月13日判決
※3:最高裁判所 平成8年7月18日判決 ※4:大阪地方裁判所 平成23年3月28日
*取材対応弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)
*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)
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