強風時や豪雨、設備の不具合などが原因で起こる停電ですが、この停電時に交通事故が起きた場合、過失の割合はどうなるのか、ご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
過失割合とはどういったことか、過失割合の考え方などと併せて解説していきたいと思いますので、ご覧ください。
■過失相殺・過失割合(過失相殺率)とは?
交通事故に遭っても被害者側に何らかの不注意(=過失)があったと考えられる場合、被害者は、被った損害に相当する金額全額について請求したとしても、加害者側の主張や裁判所の判断によって減額されてしまいます。
このように被害者側の過失を理由に加害者の賠償すべき額を減額することを過失相殺といいます。
過失割合とは、損害の全額のうち被害者が自身の過失を理由に責任を負う(=減額されてしまう)割合のことです。過失割合は、「20:80」とか「○の過失は6割」といったように表現されます。
■交通事故の過失割合(過失相殺率)
交通事故の過失割合(過失相殺率)については、「大量の同種事案を公平・迅速に処理するため、古くから賠償額や過失相殺率に関する基準化が図られて」います。(※1)
交通事故の過失割合(過失相殺率)は、道路状況・当事者の状況・交通規制・運転態様等を類型化して、こういった類型の場合は基本「○○:○○」で、修正要素に該当する事実がある場合は「-○○」・「+○○」といったように判断されるようです。
■停電時の交通事故の場合
『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂四版)』は、交通整理の行われている交差点と交通整理の行われていない交差点を分けて過失相殺率を類型化していますが、「信号機が設置されていても、黄色や赤灯火の点滅信号が表示されているだけの交差点は、「交通整理の行われていない交差点」(法36条)である」(※2)としています(同43頁)。
「黄点滅」の場合を「交通整理の行われていない交差点」というのであれば、停電時の交差点についても「交通整理の行われていない交差点」としていいのではと考えます。
したがって、信号機が作動しておらず誰がどのような進行をするのか予測不能なわけですから、車を運転する者としては、誰がどのような進行をしても事故を起こさないように徐行・安全確認をすべきであり、そうしないと著しい過失ありと判断されかねません。
例えば、停電時の交差点で、一方の車(A車とします)が(A車から見て)左の方から交差点に進行してきた車(B車とします)に衝突したとして、双方同程度の速度であれば、Aの過失60、Bの過失40といった感じになりますが(左方優先)、A車が減速しておらずB車が減速していたとすれば、Aの過失80、Bの過失20といった感じになるわけです(ただし、道路の幅員等その他の条件は同じで他に特段の事情もないものと仮定します。)。
■国・県・電力会社の責任
原動機付自転車と大型乗用自動車が交差点で衝突した交通事故について、遺族が、国・県・電力会社を相手に、交通事故の時点で信号機が停電により作動していなかったとして賠償を求めた裁判例もあります。(※3)
この事案の停電は、配電線の強化工事のための停電であり、人為的な停電でした。電力会社は、県に停電にする旨を通知していましたが対応が不十分であったようです。
この裁判例で、裁判所は、信号機の設置・管理の権限について、国にはないから国には損害賠償責任はない、県には権限があるから損害賠償責任がある、電力会社には独占的・継続的に電力を供給する地位にあるので損害賠償責任があると判断しました(ただし、原告らが請求する損害賠償額は全て填補済みなので原告らの請求を棄却)。
このように県や電力会社の賠償責任を認めた裁判例もありますが、事案次第であり、停電に至った経緯・停電を把握した後の県や電力会社の対応状況・交通事故の状況等によって認められる場合もあれば認められない場合もあるのではと考えます。
強風や豪雨等の自然災害によって停電になったということであれば、強風・豪雨が治まり修繕や事故防止の対応ができるようになったにもかかわらず放置していたといった事情がないと責任は認められないのではと考えます。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
【参考】
※1:東京地裁民事交通訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂四版)』別冊判例タイムズ第16号 39頁
※2:一方が黄点滅、他方が赤点滅の場合につき最一小決昭44・5・22刑集23巻6号918頁、黄点滅の場合につき最一小判昭48・9・27判時715号112頁
※3:浦和地方裁判所昭和57年5月17日判決
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