3月末に、兵庫県弁護士会所属の弁護士が民事訴訟の判決文を発覚していたことが明らかとなりました。
この弁護士は、着手金を受け取りながらも提訴せずに事件を放置していたため、それがばれないように依頼者に偽造した判決文を送付していたとのことです。
これらの弁護士の行為には、法律上どのような問題があるのか、以下で解説していきます。
■文書偽造や詐欺に該当、除名処分の可能性
判決文は、裁判官という公務員が作成する有印の公文書です。したがって、この弁護士の行為は有印公文書偽造罪に該当します。さらに、着手金を受け取って偽造判決文を交付して返還を求められないようにしたのですから、詐欺罪が成立します。
有印公文書偽造罪については1年以上10年以下の懲役刑が定められています。また、詐欺罪については10年以下の懲役刑が定められています。
どれだけの着手金を受け取っていたのか、提訴を怠ったことによって依頼者がどれだけの被害を被ったのか、弁償はしたのかなどの事情にもよりますが、訴追されれば実刑判決を受ける可能性も十分にあると推測されます。
訴追されたものの執行猶予判決になった場合や、刑事処分が下されなかった場合でも、懲戒審査にかけられるのはまず間違いないでしょう。弁護士の身分を失う除名処分を受ける可能性もあるといわざるを得ないのではないでしょうか。
■同じ弁護士として
この弁護士がどのような事情で提訴をせず、判決文を偽造するまでに至ってしまったのか詳細な事情はわかりません。
しかし、どんな事情があれ、犯罪に該当するような行為で事態を打開しようとすることが誤りであることはいうまでもありません。
ただ、これは弁護士に限ったことではありませんが、誰しも追い込まれると視野がどんどん狭くなり、普通の状態であれば、やってはいけないとわかるはずのことに手を出してしまうことも人間としてはありえます。
判決文を偽造した弁護士も、よほど追い込まれた状況にあったのかもしれないと考えます。冷静になるきっかけをつかむことがどこかでできていれば、このようなことにはなっていなかったのではないでしょうか。
受任した事件によっては、その行く末次第で、依頼者やその家族の人生に大きな影響が生じてしまうことも少なくありません。私たち弁護士には常にそのような意識が必要であることは言うまでもないでしょう。
しかし、それと同時に、事件の処理で追い込まれる局面にぶつかったときには、一人で抱え込まず、先輩や友人の弁護士に相談することが必要です。
相談することを恥と思う気持ちが、依頼者の利益を損ない自分を追いつめる第一歩だと考えるべきでしょう。
*著者:弁護士 寺林智栄
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