暴力や脅迫を用い女性に対し無理やり性行為を行う「強姦罪」の廃止が閣議決定されました。といってももちろん強姦が犯罪行為でなくなるわけではありません。新たに「強制性交等罪」が新設されるのです。
この強制性交等罪成立の背景や、これまでの強姦罪との違いなどを、桜丘法律事務所の大窪和久弁護士にお聞きしました。
■より現実に即した内容に
まず、強姦罪と強制性交等罪で大きく変更された点を比較してみましょう。
強姦罪は被害者を女性に限定していましたが、強制性交等罪では男性も被害者として認められるようになりました。
また、性交そのものだけでなく、性交に類する行為も対象となります。適用範囲が広がり、法定刑も重くなっており、厳罰化しているといえるでしょう。このような改正にはどのような背景があるのでしょう?
「強姦罪については、同じく暴行または脅迫を手段とする強盗罪と比べても、法定刑が低い(強盗罪は5年以上の有期懲役)のはおかしいのではないかという批判が以前よりありました。
刑事裁判の場においても、性犯罪に対する社会の見方を反映して従前より性犯罪に対する量刑が上がっており、法定刑についてもより重くすべきという議論がありました」(大窪弁護士)
また、現行の強姦罪が現実に即していないなどの声も多かったようです。具体的な例があればお教えください。
「現行の強姦罪については、犯行主体が男性のみであり、犯行客体も女性のみに限定されていました。そのため男性が性交類似行為により被害を受けても、強制わいせつ罪でしか処罰できません。
強制わいせつ罪の法定刑は6カ月以上10年以下の有期懲役であり、強姦罪の法定刑と比べて著しく軽いです。しかし、男性が性交類似行為により被害を受ける場合も身体に対する侵襲を伴う点では強姦と同様であるので、これまでの扱いが現実には即していなかったと言わざるを得ません」(大窪弁護士)
強姦罪の法定刑の下限は懲役3年です。しかし、男性が被害を受けても強姦罪ではなく法定刑下限が懲役6カ月の強制わいせつ罪を適用するしかありませんでした。男性の被害が軽く見積もられている状態だったといえるでしょう。
■改正の一番大きなポイント
上記の表の通り、適用範囲や法定刑、非親告罪化など様々な変更点がありますが、強制性交等罪の一番大きなポイントはどこでしょうか?
「やはり強姦罪の名前を変えた上で性器の挿入がない性交類似行為についても従前の強姦行為と同様に厳しく処罰するようにするという点が一番大きいのではないでしょうか。
前述の通り現行の強姦罪は現実に即したものとはいえないものであるため、改正の方向性としては妥当なものと考えます」(大窪弁護士)
強姦罪では男性による強制的な性交(性器挿入)だけが罪となる行為とされていましたが、改正法では肛門性交・口淫の性交類似行為も同じ罪となります。
ただし、性器ではない体の部位や異物挿入などはこれに含まれないことや、法定刑が本当に妥当なのか、構成要件の「暴行又は脅迫」がどの程度のものなのかなど、問題点を指摘する声も少なからずあります。
1907年の制定から実に110年ぶりとなる抜本的な改正は歓迎できることですが、今後の運用や見直しなども含め注視していきたいものです。
*取材対応弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)
*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)
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*SOMKKU / Shutterstock
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