中学校が「問題生徒」のリストを地域に配布…違法性はない?

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埼玉県熊谷市にある中学校で、問題行動・非行を繰り返す生徒の情報を地域に共有するため、13人の生徒の名前が記載された資料を自治会長などに配布していたこと、また、配布された資料がインターネット上に流出していたことが明らかになりました。

この件では、(1)非行生徒のリストを教育委員会や学校内で共有すること自体の問題、(2)リストを自治会長らに外部提供することの問題、(3)配布された資料を流出させたことの問題の3点が問題となり得ますので、順番に解説していきたいと思います。

 

■非行生徒のリストを教育委員会や学校内で共有することは可能

熊谷市条例(以下、「市条例」といいます。)の実施機関に当たる教育委員会、中学校は、生徒の個人情報を、学校の秩序維持・非行防止等の目的のために利用することができますから、非行生徒のリストを作成・共有することは可能です。

 

■リストを自治会長らに対して外部提供することは市条例違反の疑い

熊谷市条例では、個人情報の目的外利用や市以外の第三者に対する外部提供を原則として禁止し、相当の理由があるときや、公益上の必要があるときなどの要件を充たすときに目的外利用ないし外部提供を行うことができることとされています(市条例12条等)。

しかし、今回のケースでは、外部提供に当たり審議会への諮問や市長への届出などを行っておらず、上記の市条例12条の要件を充たしていないと思われますので、市条例違反の疑いがあります。

なお、本件は、埼玉県条例及び個人情報保護法の規定を見ますと市条例のほうが外部提供の要件が厳格と考えられ、「都道府県条例と市区町村条例の優劣」という難しい論点がありますが、紙幅の関係上割愛します。

 

■配布された資料を流出させた者の責任

まず、今回のケースでは流出者が誰かは特定されていないようですので、流出させた人を外部からの出席者である個人だと仮定してお話しします。

この場合、流出させた個人は個人情報保護法上の罰則は科されません。そのため、流出させたことによる生徒本人のプライバシー侵害に当たり、損害賠償義務を負い得るにとどまります。

今回のケースは、地域で連携して非行防止に取り組むという目的に対して、手続違反や情報の取扱いに不注意があったところに問題があったといえるでしょう。

改正個人情報保護法が平成29年5月30日に施行されるように、個人情報の取扱いにはより一層の注意を必要とする時代になっていますので、とくに企業や自治体は個人情報が流出しないよう対策を取ることが大事ですね。

 

*著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)

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木川 雅博 きかわまさひろ

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1-21-8 弁護士ビル303

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