残業代の計算が簡略化できるからといったメリットがあることで、実際にはその時間分働かなくても給与として支給される、「みなし残業代制度」というものがあります。
皆さんが務めている会社でも、この制度を利用している会社があるのではないでしょうか。
本記事では、みなし残業代とはどういったものなのか(どういったメリットがあるのか)、また、みなし残業代制度を導入している企業でトラブルになりやすい、「みなし残業代さえ支払えば、それ以上の残業代は払わなくてもいいのか」といった点について解説していきたいと思います。
■1.みなし残業代とは
みなし残業代とは、残業が当たり前といった職場において、労働基準法で定められた計算方法による時間外手当を支払う代わりに、一定の時間残業したものとみなして一定の金額を手当ないし基本給の一部として支給することを合意している場合の、その手当ないし基本給の一部のことをいいます。
みなし残業代を支給することは、使用者の立場からすれば面倒な残業代の計算をしなくてもよくなる、労働者の立場からすれば仕事を効率的に行って早く終わらせることにより残業をした事実がなくても残業代としてもらえる、といったメリットがあります。
■2.みなし残業代は認められるか
みなし残業代については、基本給のうち残業代に当たる部分を明確に区分して雇用契約上の賃金合意をしている必要があります。
さらに、労働基準法所定の計算方法による額(法律により支払われるべき残業代の額)がその額(みなし残業代の額)を上回ったときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことを合意している場合にのみ、基本給中の残業代に当たる部分を当該月の残業代の一部または全部とすることができるとした判例があります(最高裁昭和63年10月26日判決 小里機材事件)。
要するに、みなし残業代を導入するとしても、みなし残業代であることをはっきりさせる必要がありますし、実際の残業時間がみなし残業で想定している残業時間を超える場合にはその分についてさらに残業代を支払うことを約束する必要があるということです。
■みなし残業代を払えばそれ以上の残業代を払う必要はないのか?
したがって、例えば、みなし残業代として40時間分の残業代が基本給に含まれている場合で、それを超えて60時間働かせた場合、みなし残業代とは別に20時間分の残業代を支払う必要があるわけであり、それにもかかわらず40時間分の残業代しか支払わないというのであれば労働基準法に違反することになります。
また、法定労働時間を超える残業については残業代として割増賃金を請求できるわけですが、みなし残業代の金額は労働基準法の割増率を上回る金額でないとダメです。
さらに使用者は、労働者から労働基準法違反を理由に裁判を起こされれば付加金がついて倍額支払わされることもありますし、労働基準法違反を理由に処罰されることもあります。
労働基準法は、労働条件の最低限を定めたものですので、労働基準法と異なる合意をするにしても、労働基準法に違反していないか注意しましょう。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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