フランスでは今月1日より、従業員が50人を超える会社で、「勤務時間外の会社からの連絡に対して対応しなくてもいい」という権利を認める法律が施行されました。
法律が施行されたフランスや、日本でも賛否両論があるようですが、現時点での日本の法規制はどうなっているのか、また、同法律を日本で施行したとしたら、どんな影響が生まれるのでしょうか? 解説していきたいと思います。
■つながらない権利(The right to disconnect)とは?
つながらない権利とは、会社からの勤務時間外の電子メール等のアクセスに対し従業員が遮断することができる権利のことです。
通信手段が発達した世の中において、過剰な通信から従業員の私生活の平穏を守る権利といったところでしょう。
フランスでは、今回の法制化で従業員が会社の権利侵害を理由に裁判を起こせるようになったとのことです。
■日本の法規制はどうなっている?
日本の場合、ストーカーの電話・ファクシミリ送信・電子メールによるアクセスを禁止する法律(「ストーカー行為等に関する法律」)はありますが、現時点において、会社の電子メール等を禁止する法律はありません。
現行法では、会社の電子メール等があまりにも過剰で違法性を帯び、それによって従業員が精神疾患を発症したような場合に、一般法である民法709条・710条を根拠に従業員の会社に対する損害賠償請求が認められるかどうかといったところです。
憲法は13条で人格的生存に不可欠な権利・自由を幸福追求権として保障していますが、つながらない権利を保障して個人の私的領域を確保することは人が自分の人格を維持するために不可欠だと考えられますので、つながらない権利も憲法13条の幸福追求権の一つとみることができます。
したがって、日本でもつながらない権利を法律で具体化して会社の過剰な通信から保護することも十分可能だと考えられます。
■つながらない権利によるデメリットも……
ただし、法律でつながらない権利を認めた場合、規制の内容・程度によっては、会社の営業の自由を不当に制約することになりますし、働き方についての個人の自由を不当に制約することにもなるかと思います。
例えば緊急事態です。滅多にない緊急事態でその人しか対応できず、今すぐ対応してもらわなければ会社に大損害が生じることが明らかな場合、会社によるアクセスが許されてもいいのではと思うわけです。
勤務時間外に会社から頻繁にアクセスがあるようでは、勤務時間外を働かされているのと変わらないわけですから、つながらない権利を法制度化することも方向性としては良いと思います。
しかし、法律でつながらない権利を認めるにしても、会社の営業の自由や働き方についての個人の自由に配慮して認める必要があるでしょう。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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*さわだ ゆたか / PIXTA(ピクスタ)
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