サッカーで接触相手が重傷で賠償命令…スポーツの事故で責任を負うのはどんな時?

2012年6月、千葉市で行われた東京都社会人4部リーグの試合にて、男性は接触により、足に着けていた防具が割れ、左すねが折れ曲がる重傷を負った事故で、昨年12月東京地裁は相手選手に約247万円の賠償命令を命じたことで波紋を呼んでいます。現在相手選手は控訴をしているようです。

スポーツには怪我はつきもののような気がしますが、一体どういった場合に賠償責任が認められやすいのか、といった点について解説していきたいと思います。

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■責任を判断するポイント

スポーツの試合中に他人に怪我をさせてしまった場合、たとえ故意でなかったとしても、民事上の賠償責任や刑事上の責任が発生する場合があります。

そもそも、スポーツの中でも、ボクシングなどの格闘技、相撲などは、競技の内容自体が日常生活であれば暴行にあたる行為をしています。

また、サッカーやバスケットボールなどの球技でも体の接触が生じる場面では、他人に対する暴行行為が存在することもあります。

しかし、日常生活でやれば暴行の責任を問われる行為でも、スポーツの試合中の場合には、基本的には民事も刑事も責任を問われないのが原則です。

法律上いろいろな説明の仕方が可能ですが、スポーツの試合中における暴行によって他人を負傷させても、社会的に相当性を有する正当な行為である、というのが一番理解しやすいかと思います。そのため、基本的には違法性が阻却され、民事でも刑事でも責任を問われないという結論になります。

 

■スポーツなら何をしてもいいということではない

しかし、もちろんスポーツの試合中でありさえすれば、どんなことをしても違法性がないわけではありません。

具体的に何をするとスポーツであっても責任を負うかは、法律には具体的に明記されていません。もっとも、過去の個別の裁判例では、ある程度責任の有無を判断する要素が示されています。

個別の事案にもよりますが、主なものとしては、

(1)競技ルールを遵守したものか

(2)負傷結果発生についての予見可能性の程度

(3)プレーヤーが受け入れていた危険性を逸脱するものでなかったか

といった事情が考慮されます。

 

■責任が発生しやすい事情

スポーツにおける違法性の判断ポイントからわかるように、基本的には競技のルールを遵守したものかどうかがまず問われます。

故意または重過失により競技ルールを逸脱した行為により、他人を負傷させれば、違法性を肯定する大きな事情となります。

例えば、サッカーの試合でスパイクの裏で相手の膝に飛び掛かる、頭突きをするといった行為、ボクシングの試合でグローブに仕掛けをして相手を負傷させる行為などは、違法性が肯定される可能性が高いといえます。

野球では死球がルール上想定されていますが、故意のデッドボールまでは許されていないという解釈も可能でしょう。

また、相手が怪我をすることが容易に予見できる行為も、違法性を肯定されやすいでしょう。野球のデッドボールでいえば、故意の頭部への危険球は、当然違法性が肯定されやすくなります。故意の頭部への危険球は、プレーヤーが受け入れていた危険性を逸脱するものともいえます。

以上みてきたように、スポーツではある程度の接触や怪我はつきものですから、競技中の行為は、ルールを遵守したものである限り、基本的には違法性を肯定されることはありません。

しかし、ルールを逸脱したり、相手を負傷させてやろうとの故意のもと、危険な行為をした場合には、いくら競技中とはいえ、違法性が認定されることになります。

なお、裁判で争う場合には、競技中のビデオなどによってプレー中の様子がわかると、強力な証拠になりますが、不法行為の消滅時効は損害と加害者を知ってから3年が原則です。

大昔の事故については不法行為が時効になっているケースが多いと思います。

本件の裁判例は、負傷結果を重視しすぎたものとの評価もあるようですが、ルールの遵守や予見可能性を基に責任を判断するのが基本ですから、過度に委縮する必要はないでしょう。

今回の裁判は一審判決に対し控訴されたため、未確定です。上級審での判断も、今後の参考になります。

 

*著者:弁護士 星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)

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星野宏明
星野 宏明 ほしのひろあき

星野・長塚・木川法律事務所

東京都港区西新橋1‐21‐8 弁護士ビル303

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