今年に入ってからも三菱電機に入社してから1年目の男性社員に違法な長時間労働をさせていたことが発覚するなど、度々問題となっている労働問題ですが、ネットでは、ある投稿が話題になっています。
急なトラブル時に夜間・休日を問わずに対応する必要があるシステムを担当している方の投稿で、会社から携帯電話を渡されていて、退社後や休日を問わずいつ電話がかかってくるか分からず、緊張で休まることがないそうです。
実際に電話がかかってきて出社した場合にはその分の残業代をもらっているそうですが、いつ電話がかかってくるか分からず、“いつでも待機状態”にあるため、残業代が出ないか疑問に思っているそうです。
そこで、今回はこういった“いつでも待機状態”にある場合に残業代を出す必要があるのか、あるいは手当を出す必要があるのかなど解説していきたいと思います。
■休日や退社後もトラブルに対応できる状態でいることは労働とみなされるのか
自宅で自由に過ごせるし直接的な指揮命令もないので「労働時間」に当たらないとする見解が多数のようですが、一律に判断すべきではなく、状況によっては「労働時間」に当たる場合もあるのではと考えます。
労働基準法の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、それに該当するか否かは客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではありません(三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決)。
緊急なトラブルに対応できる状態でいるように指示されているとのことですが、夜間や休日のトラブルが頻繁で行動範囲や内容もかなり制限され(自宅から外出禁止で何時から何時まで制服のまま起きて携帯の側で待機等)、さらにトラブルが発生した場合にすぐに対応させられ(何分以内に出勤等)、連絡を受けられなかったりすぐに対応しなかったりしたら懲戒処分を受けるといった状況にあるのであれば、労働者の自由にはなっておらず使用者の指揮命令下に置かれている時間として「労働時間」に当たるのではと考えます。
なお、24時間365日止められないシステムを担当していることは、休日や退社後を「労働時間」から外す理由とはなりません。複数人に交代で担当させる等、使用者の方でどうすべきか考えるべきことです。
■“いつでも待機状態”に対して特別な手当を出す必要があるのか
「労働時間」に当たる場合、法定時間を超える労働時間について時間外割増賃金、休日割増賃金及び深夜割増賃金を使用者の方で支払う必要があると考えます。
休日や帰宅後の全ての時間が「労働時間」と判断されることはないと思いますが、「労働時間」に当たると判断された分については、労働者としては、法定労働時間を超える分について割増賃金を請求することができると考えます。
「労働時間」に当たらない場合、割増賃金を支払う必要はありません。また、この場合の手当を認めた法律の規定もないようです。しかし、労働時間以外の労働者の行動を制限するのは間違いないわけですから、その場合でも何らかの手当を支払うことが望ましいと考えます。
■緊急なトラブルに対応するために飲酒等を制限することに問題は?
労働者の方で飲酒等の制限について合意していたのであれば問題ないと考えます。仕事の内容にもよりますが、運転手等アルコールの残っている状態ではできないものもありますので、勤務時間外の飲酒等の制限についても合理的な場合があるからです。
職業柄、仕事上の過度のストレスが原因で精神的な病を患った方と多く接するようになりました。深刻な状態になった場合、多少休職しただけでは現場復帰が困難なようです。労働者の方には無理をしすぎないよう、使用者の方には労働者を酷使せず健康に配慮していただけますよう思う今日この頃です。
*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)
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【参考】
*読売新聞(YOMIURI ONLINE):会社の携帯電話で24時間「待機状態」、残業代は?
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