元銀行員という異色のキャリアを持つ天野弁護士に、職業柄もっとも大切なスキルのひとつである「信頼関係構築術」をいかにして身につけてきたか、そのマインドセットに迫りました。ビジネスパーソンもぜひ応用したい、その心構えは必見です。
天野 仁(あまの ひとし)弁護士
東京都・新宿区にある「弁護士法人ステラ」の天野仁氏は、17年間、銀行員としてキャリアを積んだ異色の経歴を持つ弁護士。本人になりかわれるくらいに相手を知って弁護に臨みたいというスタンスで、その誠実さには定評がある。
■相手の話をしっかり聞き、一見関係のない話題からも解決の糸口を見出す
___信頼関係を築く上で大切にしていることはありますか?
人や事件の内容にもよりますが、依頼者からの相談をまずは真摯に聞くというスタンスを大事にしています。延々と喋る人の場合であっても、1時間でも2時間でも遮らないで話を聞き続けます。
弁護士の場合、法律の規定に当てはめていくのに“関係ある・関係ない”といった判断が、話を聞く中である程度つくケースも多いと思います。ですが私は、関係のない話題を「それはいいですから」と、途中で話の腰を折ることはしないよう心がけています。
なぜなら、一見、関係のないような話にも、実はいろいろと解決するポイントがあることが多いと考えているからです。そのため、そういう話の中からも、できるだけ丁寧に事実を拾っていくスタンスを取っています。
そして、十分に語ってもらった上で、こちら側からも、様々な質問を投げかけます。私は、できるだけその人のことを把握した上で代理人として弁護していきたいという考えですね。
___そうやって得られた依頼者の情報はどんな局面で役立ちますか?
裁判でも法律の規定だけに当てはめた訴状を書くのは簡単ですが、弁護士は関連事実として、それ以外のことも記入します。特に不法行為などは、その悪性の有無などについても伝えるために、いろいろな事情を拾うことが重要だと思います。
裁判は、必ずしも判決で終わるわけではなく、和解も多いからです。和解は、法律に基づいて取り決められる事項だけではなく、お互いに合意することで決着します。ですから、そうした関連事実や補足された情報によって、現在に至るまでの感情についても伝えることができれば、和解内容にもそれなりに響いてくると感じています。
■話を聞くことに加えて「クイックレスポンス」も重要
___信頼関係を築く上で日頃から注意していることを教えてください。
信頼関係を築く上では、話を聞くというスタンスが大前提だと思っていますが、それを継続させていくためには、クイックレスポンスを心がける必要があると考えています。いつまで経っても返答がなかったら「この人本当に仕事をしているのかな?」となり、信頼関係が失われることにつながります。
また、裁判の前には、準備書面を提出しなければいけないので、それについて依頼者に相談や報告もしなければいけません。そういう当たり前のことを丁寧に対応することが大切だと思います。
「その事件が数多くある事件の中の一つだ」という考え方は、こちら側の論理で、依頼者や相談者にとっては自分の中の一番重要な事柄の一つです。弁護士というより、職業人として、それを忘れてはいけないと感じます。どんな案件であろうと、一度依頼を受けたからにはベストを尽くせるように、今後も日々事件に向き合っていきたいと思います。
*取材協力弁護士:天野 仁(あまの ひとし)弁護士
1967年生まれ、神奈川県出身。神奈川県立川和高等学校卒業。早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。みずほ銀行に17年間勤務し、その間、法人・個人営業、外為・デリバティブ業務、インターネットバンキング開発などを担当。主な取扱分野は、離婚・男女問題、相続、破産、交通事故、金融商品被害、労働事件、企業法務、刑事事件など。これまでの経験を活かしつつ、親切・丁寧な対応を心がけて弁護活動に取り組んでいる。また、「弁護士法人ステラ」では、優秀なスタッフを要し、一般民事・家事事件・刑事事件等の個人の法律問題から、取引紛争・事業再生・倒産事件・知的財産権・労働法務等の専門性のある企業法務に至るまで、クライアントに最良のリーガルサービスを提供できることを旨とし、日夜邁進している。
*取材・文:塚本建未(トレーニング・フットネス関連の専門誌や、様々なジャンルのWebメディアを中心に活動するフリーランスライター。編集やイラストも手がける。塚本建未Website 「Jocks and Nerds」)
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*編集部
*天野弁護士のインタビュー記事