「水をかけられた」「土下座強要」 …内定辞退の学生へのこんな対応は法的に問題?

経団連が定める今年度の新卒採用のスケジュールは、採用情報の公開が3月で、選考の開始時期は6月と、選考の開始時期が前年よりも2カ月前倒しになりました。

一方で、経団連が1,300社を超える会員企業に対して、今年度の新卒採用に関するアンケート(※)を調査を行ったところ、就活の解禁時期について「守られていない」との回答が9割近くに上ったことが分かりました。

新卒採用では、先にも述べた就活の解禁時期の問題など様々の問題がありますが、今回は内定辞退について着目したいと思います。複数内定をもらった学生の内定辞退をめぐる企業のトラブルも続出しているようです。

学生が内定辞退を人事担当者に伝えたら、「水をかけられた」「土下座をさせられた」「他社に行くと言ったら、“その会社はうちと関係があるから圧力を掛けられるんだぞ”と脅された」などといった、にわかには信じがたいケースもあるようです。こうした内定辞退に対する企業の対応に問題がないか検討してみます。

*画像はイメージです:https://pixta.jp/

 

■内定辞退に対する企業の対応の問題点について

結論から言えば、こうした人事担当者の行為は、犯罪行為(暴行、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱等)や民法上の不法行為にあたる可能性があり、その場合、人事担当者は刑事上ないし民事上の責任を負うことになります。

犯罪にあたる場合、人事担当者は処罰される可能性があります。

不法行為にあたる場合、人事担当者は民事上の損害賠償責任を負うことになります(民法709条)。

人事担当者を使用している企業も使用者としての責任を負うことがあります(民法715条1項)。

 

■内定と内定辞退の自由について

これに対し、人事担当者や企業としては、学生の内定辞退に対して腹が立ったからだと言ってみても正当化されません。

内定は、将来の一定日(例えば4月1日)から働いてもらう旨の企業から求職者に宛てた労働契約を成立させる旨の通知です。

内定辞退は、内定をもらった労働者(求職者)が一方的に行う労働契約の解約になります。

労働者は、2週間の予告期間をおけば労働契約を解約できますので(民法627条1項)、内定辞退についても2週間の予告期間をおけば自由に解約できるのが原則です。

したがって、人事担当者や企業は、内定を辞退されたことを理由に犯罪行為や不法行為を正当化することはできないわけです。

 

■対処法・解決策

企業や人事担当者としては、内定を辞退されたとしても犯罪行為や不法行為になるような対応をすべきではありません。

学生の方は、企業や人事担当者に迷惑を掛けないよう、入社するかどうか迷っているのであれば内定をもらう前に内定を辞退する可能性がある旨伝えておくべきであったと思います。

内定をもらえなくなるかもしれませんが、学生の方も、これから社会人になる以上、相手方との信頼関係を裏切らないよう行動すべきなわけです。

仮に内定辞退によって既にトラブルが生じてしまい自身で解決できない状況になってしまった場合、とりあえず大学の就職相談窓口や弁護士に相談してみてください。

 

 

*この記事は2014年6月の記事を再編集したものです。

*著者:弁護士 冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)

【参考】

2016年度新卒採用に関するアンケート調査結果の概要 実施期間2016年7月5日~8月22日 開示日2016年11月15日

【画像】イメージです

*cba / PIXTA(ピクスタ)

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冨本和男
冨本 和男 とみもとかずお

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