平成28年6月3日に制定・施行された「児童福祉法の一部を改正する法律」は、量は少ないものの、質的には大改正だといわれます(一部は平成28年10月1日、同29年4月1日に施行)。
では一体何が変わったのでしょうか。それは、目線です。法の理念が「子ども目線」に転換したのです。
■子どもが権利の主体へ
まず、第1条を、子どもが児童福祉を受ける権利者であることのみに割り当て、第2条を国民の義務と地方自治体の責任の規定にあてました。
これまで児童福祉法では、子どもは、児童福祉の対象として位置づけられていたのですが、今回の改正で「対象」から児童福祉を受ける「権利主体」へと大転換したのです。
権利と義務という裏表の関係について違う表現をしただけで、意味は同じじゃないのか? そう思っても不思議はないでしょう。しかし、これまでこの法律の基調にあった「大人目線」を「子ども自身の目線」に置き換えるからこそ、児童福祉全体を根本的に見直すことができるのです。
■児童虐待の発生予防、虐待発生時の迅速・的確な対応
こうした視点に立った具体策として、児童虐待の発生予防のために下記の3項目を定めました。
①市町村母子健康包括支援センターの設置
②支援を要する妊婦等を把握した医療機関や学校等と市町村との連携
③国・地方公共団体が児童虐待の発生予防・早期発見に資することに留意することの明確化
以上のように、妊娠期から切れ目のない虐待予防策を講じる旨が定められました。
さらに、児童虐待発生時の迅速・的確な対応策として、下記5項目も規定されました。
①支援のための拠点の整備を市町村が努めること
②要保護児童対策地域協議会の調整機関について専門職を配置すること
③政令で定める特別区には児童相談所を設置すること
④都道府県は、児童相談所に児童心理司、医師又は保健師、児童福祉司を置くとともに、弁護士等の配置
⑤児童相談所等と医療機関や学校等との情報連携
ひとつひとつみていけば、うなづける、というより当然の施策にも思えます。しかし、子ども目線を出発点に、権利実現のために何が足りないか発見する作業を経た成果が、これらの具体策になったというわけです。
■家庭的養育の促進へ
また、今回の改正では「家庭的養育」の推進を明確にしました。都道府県(児童相談所)の業務として里親支援を位置づけるなど、虐待等により親元で暮らせない子どもの「里親家庭」等での養育推進を盛り込み、従来の「社会的養護」(養護施設など)中心の発想を脱して、里親、特別養子縁組、グループホームなど「家庭的養育」の比重を大きくしようという意図によります。国連の改善勧告があったのも事実です。
家庭的養育と社会的養護、どちらがいいのか、単純に比較するのは難しいものです。施設タイプのほうが子どものメリットが大きいとする経験者の意見もあります。しかし、質の高い里親が少ないままでは、そもそも受け皿の選択肢にすらなり得ていません。今回の改正はそれを改善しようとしています。
子どもたちには、等しく健やかに育ってほしいものです。この改正が機能を発揮できるか見守りたいですね。
*著者:鉄箸法雄(法情報専門の編集者・ライター。出版社で、長年法律書籍・デジタルコンテンツ等の編集に携わったのちに独立。現在も「全ての人に良質な法情報を」をモットーに活動中)
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