日本初の「ブラックバイト訴訟」で問題視されているポイントを弁護士が解説

■女性店長の異常行為を企業批判と同一視はできない?

「しかしながら、明らかな異常行為を行っている店長の責任と、企業の責任を全く同一視するかのような報道姿勢には問題があるように思います。

本件において企業側の問題は、店長に対する教育指導、店舗従業員からの苦情処理システム、運営会社の店舗監査能力が、それぞれに不十分さがあったことだと思います(店長の行為が異常かつ違法であることは当然です)。この点について運営会社は大いに反省すべきでしょう。

ただ、店長の異常行動について、第一次的な責任は当然店長自身にあるため、これをセンセーショナルに取り上げ、さも企業全体が同様のことをしているような非難をすることには疑問があります。

ただ、弁護士としてひとつ大きな疑問としては、店長が学生を包丁で刺したということが事実であれば、当然刑事事件として立件されるはずですが、当該立件報道がありません。また、少なくとも包丁で刺されたことを警察に相談するはずですが、報道にはこの点の経緯も記されていません。まだ捜査段階なのかもしれませんが、これらの疑問から学生側の主張を全て鵜呑みにできないようにも思います」(梅澤弁護士)

 

■労働面との因果関係にも注目を

この学生の主張が正しいかどうかは、今後の訴訟の成り行きを見守りたいと思いますが、訴訟の場で当事者が嘘をつくことは比較的多いそうで、裁判官はそれも承知していると梅澤弁護士は言います。

労働面に関して言うならば、「法定休日(原則各週1日、例外的に4週4日。『労基法35条』)や労働時間規制(原則8時間、例外として36協定締結により週45時間以内で延長可能)に違反する態様であれば、違法」とのことですが、労働者が自ら望んで就労したような場合は、当該就労について直ちに慰謝料が発生するとは考えにくいとのこと。

ただし、こうした勤務を継続した結果、労働者が心身を故障してしまい、当該就労と心身の故障の因果関係が明らかな場合、企業が重い責任を負うこともあります。

明らかに犯罪を犯している店長と、労働問題とは別に考えなければいけません。もし、恐喝や暴力を受けている方がいれば、スマートフォンで写真を撮ったり録音をしつつ、事実経緯をノートにまとめるなどして証拠を揃えたうえで、警察や弁護士に相談してください。

 

*取材協力弁護士:梅澤康二(プラム綜合法律事務所。東京都出身。2008年に弁護士登録。労働事件、労使トラブル、組合対応、規定作成・整備などのほか各種セミナー、労務問題のリスク分析と検討など労務全般に対応。紛争等の対応では、訴訟・労働審判・民事調停などの法的手続きおよびクレーム、協議、交渉などの非法的手続きも手がける。M&A取引、各種契約書の作成・レビュー、企業法務全般の相談など幅広く活躍。)

*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)

【画像】イメージです

*jazzman / PIXTA(ピクスタ)

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