社訓がありえないほどブラック!社員への押し付けは法的にNG?

会社の規模にかかわらず、社員の目につく場所にドンとこれみよがしに貼り出されている「社訓」。

最近では、かつてスタジオジブリに貼り出されていたという“去ってほしい社員の条件”がネット上で話題になりました。「知恵の出ない社員」「言わなければできない社員」「すぐ他人の力に頼る社員」……などなど、不要な社員例が7つほど記されています。

しかし、これは逆に解釈すれば「こういう社員であってほしい」という会社の思いが読み取れる内容で、そのように読めば不当とは言い切れません。

たいていの社訓は、ジブリのものと同様、「肝に命じて良い仕事をして欲しい」という願いから、少し厳しめの言葉で訓示が書かれているもの。

しかし、その社訓が、たとえば「成果が出ない者は死ぬまで働くべし!」「飯食う資格がある者はテレアポを取れた者のみ、取れるまで飯食うべからず」など、過酷な勤務を強要するものだった場合、これを守ることは、社員の義務なのでしょうか?

そこで、労務問題全般に詳しいプラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士に、社訓の法的な強制力について伺ってみました。

*画像はイメージです:編集部

 

 

■社訓に法的な強制力はある?ない?

まず、社訓の位置づけとは?

「会社の就業規則は労働契約法7条により労働契約上の権利義務を構成しますが、社訓は就業規則と異なるものとして作成され、あくまで訓示的なものとして位置づけられるのが通常です。そのため、一般的には社訓により契約上の権利義務が直接根拠付けられるものではなく、会社が社訓に基づいて何らかの指示・命令をすることはできません。

したがって、会社は自社の裁量によって自由に社訓を作成することができ、その内容が過酷な勤務を強制するものであったとしても、それのみで会社の社訓が違法だとか、不当ということにはならないと思います。ただ、上記のとおり社訓自体には契約上の権利義務を導く効力はありませんので、従業員はそのような社訓が定められていても、これを尊重はしても遵守する必要まではありません。」(梅澤弁護士)

ということで、社訓が明らかに違法な内容でも、これはあくまで訓示(宣言)に過ぎず、直ちに法的問題に結びつくことはありません。

しかし、梅澤弁護士曰く、過酷又は苛烈な社訓を掲げる企業には次のようなことが問題になり得ると指摘します。

「事実上の問題として、明らかに違法又は明らかに不合理な社訓を堂々と掲げていることは、従業員の会社に対する忠誠を削ぐものですし、これが外部に漏れた場合には会社の評判に傷がつく可能性が高いといえます。このような社訓はメリットが全くない反面、デメリットが大きいと思います。」(梅澤弁護士)

いわゆるブラック企業は法令やモラルを無視又は軽視しがちであり、その一端が社訓にあらわれることもあります。すなわち、「違法又は明らかに不合理な社訓」を堂々と掲示している企業は、それ以外の部分でも法令やモラルを殊更に無視又は軽視している可能性が高いのです。社員としては、会社の対応が「当たり前のもの」と鵜呑みにせず、場合によっては辞職する途も検討すべきといえそうです。

 

■就業規則の中に”社訓を守るべし”とあった場合は……

ひとつ気をつけたいのは、企業の就業規則や労働契約書の中に社訓への言及があった場合。たとえば、就業規則や労働契約の服務規程の中で「社訓を順守すること」と記載されていたとしたらどうでしょうか。

「先に述べたとおり、一般的には社訓にもとづいて指示・命令をすることはできませんが、これが就業規則や雇用契約で言及された場合、その範囲で契約上権利義務が生じることはあり得ます。この場合は、社訓ではなく、就業規則又は雇用契約に基づいて社訓に沿った指示・命令をすることが可能となります。

とはいえ、社訓の内容が違法又は明らかに不合理な場合には、就業規則や雇用契約の中で触れていようとも無効となり、そのような指示・命令に従う義務はないということになります。また、社訓の内容があまりに抽象的であったり理念的な場合も、これが具体化されない限り、契約上の権利・義務を導くものではないと思われます。」(梅澤弁護士)

万一、就労先において「社訓を守ることは就業規則(労働契約)に記載してある」と言われた場合、まず「どんな内容の社訓なのか」「具体的に何を求めるものなのか」を尋ねてみましょう。結果、その内容が違法だったり、明らかに不合理だったり、誰がどう見ても「ブラック」といえる場合は、これを守らなくても社員に責任が生じることはないということになります。常識的にも、社員に犯罪を強要したり、奴隷的勤務を強制する社訓があった場合、「ルールだから守れ」と言われても、これを守る義務などないのは当然となります。

非正規雇用が増大する現代社会では、ようやく正社員になれた企業で多少無理をしてでも頑張ろうという気持ちを持つことは自然なことです。また、会社が社員を鼓舞するために多少厳しい態度を示すことも責められることではありません。しかし、就労先が明らかに非常識な社訓をこれみよがしに掲げ、正当な理由・根拠なく社員に強制している場合、これを無条件で受け入れることなく、その体質や姿勢に疑問を持つことは大切です。そして多くの場合、そのような企業で就労を継続しても成長は望めないですし、心身に悪影響を及ぼすこともあるので、転職も視野に入れるべきでしょう。

 

*取材協力弁護士:梅澤康二(プラム綜合法律事務所所属。東京都出身。2008年に弁護士登録。労働事件、労使トラブル、組合対応、規定作成・整備などのほか各種セミナー、労務問題のリスク分析と検討など労務全般に対応。紛争等の対応では、訴訟・労働審判・民事調停などの法的手続きおよびクレーム、協議、交渉などの非法的手続きも手がける。M&A取引、各種契約書の作成・レビュー、企業法務全般の相談など幅広く活躍。)

*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)

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*編集部

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