36協定の見直しで何が変わる?根強い「残業トラブル」の法的問題を弁護士が解説

ビジネスパーソンの本音としては定時に帰りたいでしょうが、仕事が残っていると上司がいる手前、残業せざるを得ないといったケースも多いと思います。もっとも中には、ある意味空気を読まず、定時にさっさと帰ってしまう人もいるでしょうが、上司からしたら文句のひとつも言いたくなるかもしれません。

また、最近ではブラック企業という言葉をよく耳にします。特に残業が常態化し、労働者を肉体的にも精神的にも追い込んでいくような劣悪な労働環境となっている会社がいくつもあり、大きな社会問題となっています。

これら残業に関するトラブル事情について、水田法律事務所の河野晃弁護士にいくつか質問してみました。

※画像はイメージです:http://www.shutterstock.com

 

■定時に帰る社員に文句を言うのは法的に妥当?

「定時に帰ることに対して会社側が残業を強要するようなことは法律上原則として許されません。また、当然ですが、定時帰社を理由に不当な労働条件を課したり、ましてや解雇することは違法です。」(河野弁護士)

労働時間は労働基準法によって決められており、36協定(時間外労働を可能とする労使間の協定)と残業命令できる旨の労働契約・就業規則がない限り、会社は労働者に残業を命じることはできません。そのため、36協定等がない中、定時に帰る労働者を非難することは、法律的には的外れといえるでしょう。

 

■36協定の見直しで残業問題は解決に向かうのか?

現在、36協定がある場合でも、一応の上限(通常の労働者であれば、例えば1カ月だと45時間)が定められていますが、特別な事情があれば延長できるとされており、これを利用して長時間の時間外労働を強いている場合もあります。

このような状況の中、最近になって政府が36協定制度を見直す方針(上限を超える時間外労働は原則禁止、罰則規定の新設)を表明していますが、36協定制度の改善により日本の労働環境は良い方向へと変わるでしょうか。

「規制強化により残業自体は減るかもしれませんが、その分会社の業績が低下し、人員整理や給与の引き下げにつながっては元も子もありません。だからといって、無秩序に残業をさせればいいとは思いませんが、残業規制を強化すればよいという問題でもないような気がします。弁護士をやっている実感としては、36協定云々というよりも、そもそも労働関連法規についてほぼ知らない、もしくは誤った理解をしている経営者が多いことが問題だと思います。」(河野弁護士)

具体的にはどのような労働関連の法規に対して、誤った解釈がされている場合が多いのでしょうか。

「自分の会社の所定労働時間すら理解していないというケースや、36協定を締結せずに事実上残業を強いているというケースがよくあります。まずは、経営者側の意識を変えることが必要なのではないでしょうか。」(河野弁護士)

 

■労基署の運用体制改善にも期待したい

また、政府が掲げる36協定制度の見直しとともに、残業問題を考えるにあたって検討しないといけないことはあるでしょうか。

「政府が規制を強化するとしても、実際の取り締まりを強化しなければあまり意味がありません。労基署の職員を増やしたり、労基署の職員達をしっかり働かせるような運用も必要なのではないかと思います。」(河野弁護士)

ブラック企業大賞まで作られてしまう今日、日本における残業トラブルは転換期を迎えているといえます。規制強化だけではなく、日本企業全体の意識改善や実効的な取り締まりモデルの構築にも目を向けることが必要なのかもしれません。

 

*取材協力弁護士:河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活6年目を迎える。敷居の低い気軽に相談できる弁護士を目指している。)

*取材・文:フリーライター・益原大亮(法律関連の記事の執筆を専門として活動しているライター。自身も平成28年の司法試験に合格し、弁護士になる準備をしている。)

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* Fred Ho / Shutterstock

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