メールを色々な人に一斉送信する際は、誰に送ったかが分からない「Bcc」で送るのが基本的なマナーです。
しかし、間違ってToやCcとして送ってしまうと、メールを受信した全員がそれぞれのメールアドレスを見ることができる状態になってしまいます。
友人同士ならまだ良いものの、例えば仕事の業務上で大量に送信するメルマガやイベントのお知らせなど、それぞれ面識のない人達に一斉に送ってしまったら、メールアドレスという情報が大量に漏れたということになってしまいます。
名前や住所などではなく、メールアドレスが一部の人に公開されるこのケースですが、法的にはどう扱われるのでしょうか。はたして、送信してしまった人は責任を負うのでしょうか。解説します。
■法的には、いわゆる「情報流出」の一類型に
このようなミスはたまに見受けられるのですが、メールアドレスも個人に紐付く情報であり、情報流出の一類型といえます。
ただ、メールアドレスといっても、本名を使っているもの、全く本名と関係がないもの、電話番号がメールアドレスの一部になっているもの、単なる英数字の羅列となっているもの等々、いろいろなものがありますし、純粋に個人で使っているものか会社から与えられたものかといった違いもあります。
このように、メールアドレスが流出したとしても、それによって受ける影響・損害などは人によって異なるといえます。
■プライバシー侵害として損害賠償責任を負うことも
このように、一口にメールアドレスといっても色々なものがあるわけですが、個人を特定し得るようなメールアドレスが使われている場合があります。たとえば…
1.kghouhewg@xxx.jp … 意味のない文字の羅列
2.yamada-hanako@xxx.jp… フルネームが分かる
3.tanaka@xxxcompany.co.jp … 苗字・勤務先が分かる
1.については、誰のことだか分からないという問題があるため、これについては損害賠償責任が発生しない可能性があります。
しかし、2.と3.のケースでは、誰のことか分かる形で流出したということになるため、慰謝料請求の対象になると考えます。
■ただし、1件あたりの慰謝料額は少額に
宇治市住民基本台帳データ漏洩事件(大阪高裁平成13年12月 25日判決)では、宇治市から再々委託を受けたアルバイト従業員が住民番号、住所、氏名、性別、生年月日、転入日、転出先、世帯主名、世帯主との続柄等の個人情報の記録のコピーを名簿販売業者に販売した事案で、1件あたり慰謝料10,000円を認定しました。
また、早稲田大学名簿提供事件(最高裁第2小法廷平成15年9月12日判決)では、早稲田大学が、中国の江沢民国家主席(当時)の講演会に参加を希望した学生・教職員ら1,400名の名簿(氏名・住所・電話番号・学籍番号を記載)を警察に提供した事案で、1件あたり5,000円の慰謝料を認定しました。
メールによる流出も、同報されていた受信者に流出したというだけで、たとえばインターネットなどに公表されたわけではありません。また、他の事件と異なり、住所や氏名などが明らかになるものでは必ずしもありません。
そのため、慰謝料額はこれらの事例よりも低くなる可能性が高いと思います。
■配信する側にとっては金額以上に大きなリスクに
とはいえ、1件1件の賠償額が少なくても、同報したメールの数がかなり多ければ、トータルで見ると賠償額が多額に膨れあがることがあります。また、“信用”という大きな財産を失うリスクも大きいです。
*この記事は2014年10月に掲載されたものを再編集しています。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)
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